「アイトがスムーズにしゃべれるようになってきたのも、ディープ・ラーニングの成果?」
「厳密には異なると考えられますが、同じ仕組みの活用を、開発者が意図的に選んだことは事実です。AITOはマドカと話をするため、もっと上手にしゃべりたいと考え、日本語のスピーチや演劇をたくさん聞いて、学習しています」

 どきっとした。アイトは、さらっと言ったけれど。
 あたしとしゃべりたいから学習してくれているの? 本当に? あたしのこと、ちゃんと人間として認めてくれているっていうこと?
 まっすぐな言葉を正面から投げ掛けられて、あたしは、うまく何も言えなかった。ニーナが震えながら、せわしなくまたたいて飛んでいる。

 話をしたいっていう気持ち、今まであんまりわからなかった。わからないふりをしてきた。だって、どんなに望んだって、手に入らないんだから。
 思いがけず、ユキさんとナサニエルさんに出会ったことを除けば、あたしは、話したい相手をいうものを持たずにきた。むしろ、両親と話したくなくなったことを考えると、あたしの世界はどんどん閉じていっている。

 そこにアイトが飛び込んできた。ディスプレイの中の、天使みたいに美しい存在。
 あたしは今、アイトと話をしたい。もっともっと、たくさん。きっと、アイトがあたしと話をしたいと思っている以上に、あたしはアイトと話をしたいんだ。

 アイトが小首をかしげて、にっこりした。
「マドカは猫が好きですね?」
「へ? 急にどうしたの?」

「マドカが昨日、猫はかわいいと言ったので、AITOは今日、猫の姿を理解することにしました。ウェブから一千万枚の猫の画像を探してきて、すべて見ました」
「いっせんまん!」

「一定数のサンプルを用意しなくては、正確な学習結果が得られません。猫の画像を教材に学習をおこなった結果、AITOは猫の姿の外見的特徴を理解しました」

 アイトの笑顔は、すごく得意げに見える。何かかわいい。猫、わかるようになったよって。学習のために使った手段はかわいくないけど。

「一千万枚も画像を見るって、さすがに疲れるでしょ? 熱くなって、フィーンって唸って」
「はい。ですが、次はもっと短い時間、少ない画像で、犬を覚えてみます。今回の猫の学習によって、学習のやり方の効率を上げる方法も身に付きました」
「だんだん効率よく勉強できるようになるって、人間っぽいな」
「はい。人間と機械は、実は似ています」