「エアの行く先にトトが居る」
 
だから私はクラウンがトトになるのではなく、ブラッドこそがトトになる存在だと思っています。

この世界のトトを決める権利を持っているのは、何も星の涙だけではありません。

誰もが【この人こそが】と思った時が、その存在になれるのですから。

「確かに私はエアの守護者です。本来ならあの方の願いを優先させるべきだとは思っています。しかし今の私たちの主はエアではなくオフィーリアです。私はオフィーリアに幸せになって欲しいのです」
 
私はそう言ってアムール様に微笑んで見せた。

アムール様も私につられたのか、同じく優しく微笑んでくれると私の手を握ってくれた。

「分かった。お前がそう望むのなら俺もその手助けをさせてもらう」

「ありがとうございます。アムール様」
 
その手を握り返した私はもう一度、アムール様に微笑みかけた後に青空を見上げた。

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レーツェルの言う【幸せになってほしい】と言う願いは、他の誰でもない俺が一番理解出来るものだった。
 
俺はまだオフィーリアと言う人間がどういう存在なのかを知らない。

だがレーツェルやブラッドが、心から愛してしまう程の存在だと言うことは分かった。
 
愛した人のために強くなろうとするあいつの姿は、昔の俺に良く似ていた。

まるでもう一人の自分が目の前にいる感覚になって、昔の俺も周りからあんな風に見えていたのかと思うと、今更ながらに気恥ずかしさが込み上げてきた。

「行こうか、レーツェル」

「はい、アムール様」
 
俺は彼女の手を引いて歩き出す。
 
しかし本当の幸せと言うものはそう長続きはしない。

それは俺自身がこの身を持って実感していることだ。

レーツェルも分かっているはずだ。

例えオフィーリアを助け出したとしても、いつかは決断を迫られる日が必ずやって来る。
 
星の涙をその身に宿している以上、彼女こそが【この世界のエア】なのだ。
 
しかし俺だって二人には幸せな未来を歩んで欲しいと思っている。

ブラッドには大切な人を失うなんて経験はしてほしくない。

だから今度こそ絶対に守り抜いてみせるんだ。あんな思いは……もうたくさんだ。

「ごめん……守れなくて……、約束を……守れなくて!」

「……くっ」
 
愛した人を目の前で失う苦しみはブラッドには必要ない。

この苦しみは俺一人だけが抱えていればそれで良いんだ。