「ブラッド。一つだけ言っておくが、俺の事は【アムール】じゃなくて【アル】って呼べ」

「…………えっ?」
 
アムールじゃなくて……アルって呼べ? ってことはさっきの殺気は、アムールって本名を呼ばれたから怒っただけの物……? 

えっ……何で?!

「アムール様は名前で呼ばれる事を嫌っているんです」
 
するとじっとアムール……アルの隣で座っていた彼女が、横から口を挟むように言葉を突っ込んできた。

そんな彼女の姿にアルは表情を歪ませる。

「それにはちゃんとした理由があります。それは――」

「それは! い、言わなくていいだろ!」
 
アルは咄嗟にレーツェルの口を片手で塞いだ。

そんな二人のやり取りに俺は軽く目を瞬かせた。

そしてさっき自分は思った事を思い出した。

「あ〜……なるほど」
 
【女っぽい名前】だから本名で呼ばれるのが嫌なのかと、勝手にそう解釈した俺は笑った。

そんな俺の姿を横目で見ていたアルは、嫌そうに目を細めると一回咳払いをして、彼女から手を離すと俺に視線を戻した。

「それで話しは変わるが、ブラッド」

「お、おう」
 
アルはじっと真っ直ぐ俺を見据えてくる。

その拍子に太陽の光によって、彼の両耳に付けられているピアスのリボンが揺れた。

そのリボンが剣頭から吊るされていたのを思い出しながら、俺はアルの言葉を待った。

「ブラッド。お前は俺と契約をする気があるのか?」

「……契約」
 
それは魔剣の主としてと言う意味なんだろう。

当然、契約出来る物なら俺は今直ぐにでも契約したかった。

でもそれをアルは認めてくれるのだろうか?
 
あんな無様な姿を晒した手前、【俺と契約して力を貸して欲しい】なんて言うのはやっぱりちょっと抵抗があった。