おい、この声って確かあのときの俺を一発殴りつけた時の男の声に似ていないか? 

あ、変な部分であいつの事を覚えているんだなって思わないでくれ。
 
魔剣アムールはゆっくりと俺に近づくと、隣に居たレーツェルの姿に気がついた。

『……っ! まさかそこに居るのは……レーツェルか?!』

「はい……! アムール様!」
 
レーツェルは目尻に涙を浮かべると、胸の前で手を絡めると軽く二、三度頷いて見せた。

そして両腕を大きく広げると、そっと魔剣アムールを抱きしめた。
 
その光景を目にして俺は慌てた。

「ちょっ! レーツェル! そのまま抱きしめたら怪我するって!」
 
しかしレーツェルは俺の言葉にお構いなしに、ギュッと魔剣アムールを抱きしめたままその場に座り込んだ。

そしてとても嬉しそうに涙を流している彼女を見て、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

「レーツェル……」
 
もしかしてレーツェルはずっと、アムールって言う人ともう一度会える事を心待ちにしていたのだろうか? 

……いや、きっとそうだったんだろう。

だって彼女の流す涙がそれを現しているのだから。

するとレーツェルの腕の中で抱きしめられていた魔剣アムールは、刀身を紅く輝かせるとレーツェル同様、人間の姿に戻るとそのまま力強く彼女の体を抱きしめ返した。
 
そんなアムールの姿を見て俺は内心【やっぱり】と思った。

レーツェルを抱きしめている人物は紛れもなく、あの時あの世界で俺を殴った張本人だった。