「確かにそう約束したけど、これが本当に魔剣アムールだって言うのか?」

俺は半信半疑でその剣を上下に軽く振ってみた。

しかし魔剣アムールはうんともすんとも言わず、ただ俺の思うがままに振り回されている。
 
これが本当に魔剣アムールなら、レーツェルみたいに喋ったり人間の姿になれたりするって事だろ? 

それにエアの恩恵を受けて特別な力だって秘められているはずなんだろうけど、この剣からは魔力を少ししか感じない。

だから正直ちょっと不安だった。
 
だってこれ、たまたま通った道に居た老婆から預かった物で……いや、もう貰った物って思っても良いか……。

そんでいざ剣を拾ってみたらたまたま魔剣でした、なんてそんな美味すぎる話があるわけがない。

って思いたいところだけど、レーツェルが嘘を言っているようにも思えない。
 
俺なんかよりもレーツェルの方が魔剣について詳しいんだ。

だって彼女もエアの恩恵を受けたと言われる魔剣の一本なのだから。

レーツェルは切っ先近くの凹みの中にある紅い石みたいな物にそっと触れると、誰かに話かけるように口を開いた。

「【アムール様】。私の声が聞こえませんか? レーツェルです」

「アムール……様?」
 
彼女が【様】付して名前を呼んだ事に、俺は少しびっくりして軽く目を見張った。

それは彼女が【様】付して名前を呼ぶ姿を、今まで一度も見た事がなかったからだ。
 
ひょっとしてアムールって人は物凄く偉い人なのだろうか? 

名前からして女性だと思うけど。
 
頭の中でそんな事を考えていた時、レーツェルの声に反応するかのように凹みの中に浮かぶ紅い石が一瞬煌めいた。

そして魔剣アムールは手の中からすり抜け出ると、刀身を下に向けた状態で起き上がった。

その光景に目を丸くしていると、魔剣アムールから聞き覚えのある声が耳に届いた。

『お前か? 俺の力を求めるのは』

「――っ! その声!」