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『良いの、セイレーン? アタイたちは行かなくて?』

「……っ」
 
やはりあの方はクラウンのところへ行ってしまわれた。

あの時オフィーリア様にマールを渡さなかったのはやはり正解のようでしたね。
 
しかし……あの時もし、わたくしがオフィーリア様のお側に居る事が出来ていれば、あの方がクラウンの元へ行くことはなかったのでしょうか? 

ブラッド様とオフィーリア様をもう一度再会させる事が出来たのでしょうか?

「……悩んでも仕方がありませんわね」
 
きっとわたくしがお側に居たとしても、クラウンの元へ行くという覚悟を決めたのはあの方自身なのですから、止める事は出来なかったでしょう。

「マール。あなたから見てブラッド様はどうでしたか?」

『そうだね〜。ぶっちゃけアタイ的には、どっちがトトになっても構わないんだけど、やっぱりレーツェルと一緒に走っていた彼が良いかな』

「そうですわね。わたくしもトトになられるお方は、あの人が良いと思っております」
 
オフィーリア様が無意識にトト様として選んでいた彼は、わたくしから見てもその素質は十分あると思いました。
 
愛しい人の記憶を忘却され、その存在を思い出した時にはもう手の届かない場所へと行ってしまっていた。
 
しかし彼は諦めずに立ち上がり、オフィーリア様を助けるために走って行かれた。

ふふ……やはり人間族を観察するのは楽しいでわすね。

「では、マール。わたくしたちも参りましょうか」
 
マールにそう告げたわたくしは、踵を返して元来た道を戻り始める。

『助けに行くの?』
 
その言葉にわたくしは軽く微笑んで見せた。

「いいえ、お二人の行く末を観察しにですわ」
 
本来なら守護者として、ブラッド様と一緒にオフィーリア様を助けに行くべきなのでしょうが、今回わたくしは見守らせていただきます。
 
これはブラッド様がお一人で成し遂げなければならないこと。

わたくしが手助けをしてしまってはいけない気がするのです。

きっとブラッド様もお望みにはならないでしょう。
 
もし……わたくしが守護者として動く時が来るとするならば、それはブラッド様たち次第ですわ。