「お前ずっと苦しそうに頭を抱えていたんだぞ! 汗だって酷くかいてる。いったいどうしたって言うんだ?!」

「……それは」
 
レオンハルトに話しても良いのだろうか? オフィーリアのことを。

でも今のレオンハルトも俺と同じように、オフィーリアの事を記憶の中から忘却されているんだとしたら……、それにこれ以上レオンハルトを巻き込むわけにもいかない。

だったら――

「ようやく思い出してくれたんですね」

「っ!」
 
直ぐ近くの森の中から声が聞こえてきて、俺たちは直ぐに森へと視線を送った。

視線を送った先には顔を伏せている女性らしき人物が、胸の前で手を組みながら立っていた。

俺はその姿に眉を寄せながらも、聞こえてきた声の主をどこか知っている気がした。

いや、どこかで見覚えがあるような気がしたんだ。
 
声の主はゆっくりとこちらへ歩いて来ると、その姿を俺たちの目の前に現した。
 
太陽の元に輝く肩先まである白銀の髪に、左前髪を留める月型の髪留め。

何かを祈るように絡められた手を解いた彼女は、伏せていた顔を上げると金色の瞳に俺たちの姿を映した。

そして来ている白いワンピースの裾を軽く持ち上げると、初対面の人に挨拶するように軽くお辞儀をしてから口を開いた。

「私の名前は【レーツェル・ライラック】。この姿でお会いするのは初めてですね、ブラッド」

「れ……レーツェル?!」
 
俺は彼女の名前を聞いて声を上げた。そんな俺の姿に彼女は軽く笑う。
 
レーツェルって、まさかあの魔剣の姿をしていたレーツェルのことか?! 

な、何で人間の姿に!?

この姿でお会いするのは初めてってどういう意味だ?! 

いや、それより今【レーツェル・ライラック】って言わなかったか? 

【レーツェル】は本名だとしても【ライラック】ってなんだ? 

どうして名前が二つあるんだ……?