ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「……ああ、そうだ」
　
俺は顔を伏せながらゆっくりと立ち上がった。

「彼女は……俺なんかのためにその身を犠牲にしてくれた。それは俺を守るため、俺を大切だと思ってくれているからなんだ」
　
だから彼女が俺に背を向けている理由は、いや背を向けているのではなく、俺を守るために前に立ってくれていたんだ。
　
その背中を見る度に俺が涙を流していたのは、彼女へ対する申し訳ないと言う気持ち。

そして……俺を守ってくれていた事に気づけなかった事に対する悔しい気持ちだ。
　
彼女へ手を伸ばしたくてもやめてしまったのは、彼女がもう遠くへ行ってしまい、二度と手が届かないと知っていたから。

『お前はどうする？　自分のためにその身を犠牲にしてくれた彼女のために、お前が出来ることはなんだ？』
　
その言葉を聞いて俺は深く深呼吸してからゆっくりと伏せていた顔を上げた。

光の戻った左目で真っ直ぐ彼の顔を見つめた。

「彼女の事を思い出して助けに行く。ただ、それだけだ」
　
今の俺が出来ることはそれだけだ。

彼女が俺のために行動を起こしてくれたのなら、俺だって彼女のために行動を起こす義務がある。
　
だから今は――

『……そう思えるなら思い出せるはずだ。お前にとって彼女がどんな存在だったのか、そしてお前の中で暴れている感情が、いったい何なのかをな』
　
彼は最後にそれだけ言うと優しい笑みを浮かべながらその場から姿を消した。

そして彼が姿を消した先には……俺に背中を向けている彼女の姿があった。

「……今更かもしれない。今から俺がお前に手を伸ばそうとするのは。でも……」
　
俺の言葉に彼女は反応を示してはくれない。

だが今はそれでも良い。

今の俺がすべき事はたった一つなのだから。