ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

だから俺は今自分の中で暴れているこの感情を、こいつにぶつけることしか出来なかった。

「お前が言っていることは……分かっている。彼女があいつのところへ行ったのは、きっと俺を守るためだ。だが……その彼女のことを思い出したくても、思い出すことが出来ない! 何か大切なことを忘れているはずなのに、それが何なのか分からないんだ!」
 
俺は涙を流しながら胸元の服をくしゃりと握りしめた。

「彼女のことを考えるたび、胸が酷く締め付けられる。俺の中で名前の分からない感情が、必死に暴れて叫んでいる。この感情は……何なんだよ! 俺にとってあの子は、どういう存在だったんだよ! どうして彼女は……俺のためにそこまでするんだよ!」
 
俺は悔しかった。

今の自分ではその答えに辿り着くことが出来ず、抜け出すことが出来ないのだから。

こうして初対面の男の前で無様に泣き立ち尽くしながら、俺はこいつに【同情】を求めてしまった。
 
しかし彼は俺に同情することはせず、ただ頭を左右に振って見せただけだった。

そして俺は気がついた。

俺はこいつに同情を求めることによって、この答えの分からない迷路から救って貰おうとしていたことに。
 
そんなことを一瞬でも考えてしまった俺は、更に自分のことを許せなくなった。
 
名前も知らない顔も知らない彼女が、俺なんかのためにその身を犠牲にして、この手が二度と届かないところへと行ってしまった。

それだと言うのに俺は彼女のことを忘れ、のうのうとこの三ヶ月を過ごしていた。
 
それだけでも今直ぐ自分を殺してしまいたいほど許せないと言うのに、俺は自分だけが救済されるために同情を求めた。

結局こいつの言う通り俺は彼女のことを何も考えていなかった。
 
彼女のことを思い出したいのだって、全ては俺自身がこの苦しみから開放されたいからなんだ。

それ以外に最もな理由なんて物は存在しない。
 
人は誰かのために何かをしたいと言う。

しかし口では【誰かのため】にと言っても、結局それも自分自身のためなんだ。

満たされ満足することが出来れば、もう誰かの為になんてことは直ぐにどうでも良くなる。