ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

ぐらりと大きく目の前が揺れて体が前に倒れ掛けるが、俺は何とか両足に力を入れて踏ん張った。
 
そしてクラウンを睨み上げて言う。

「人殺しのお前にも……かけがえのない存在なんて居たんだな。……ふっ。どうせそいつも、ろくでもない人間なんだろ!?」
 
こんな人間でもない男の側に居る奴なんて、ろくでもない人間に決まっている。

きっとそいつも同じく人殺しの人間なんだろ?
 
俺は苦笑しながらクラウンを煽ってみせる。

しかしクラウンは怒るどころか、何か面白い物でも見るように声を高くして笑って見せた。

「まったく……君は本当に面白いことを言うね。そんなこと君が言っても良いのかな?」
 
クラウンの言葉に俺は軽く目を見張った。

「……どういう意味だ? ……まさかそのかけがえのない人物は、俺と関わりでもある人間だって言うのかよ?」

「ああ、その通りさ」
 
俺はクラウンに確認を取るようにそう問いかけた。

だがクラウンは否定するどころかあっさりと言ってのけた。
 
俺と関わりのある人物……。

それはクラウンにとってかけがえのない人で、俺とも関わりがあった人物……。
 
そこで俺の脳裏にあの夢で出てきた白銀の髪を持った女性の後ろ姿が浮かんだ。

「っ!」
 
まさか……!

「記憶のない君からしたらいったい何の話かと思うだろうけど、俺と彼女にとってはとても大切なことでね。でもその彼女が俺の側に居てくれると言ってくれたんだよ。だからもう彼女に関する全てのことは、君には関係のないことさ」

夢の中の彼女がクラウンの側に居るだって?! 

いや、その前にあの子が自らあいつの側に居る事を望んだだと?! 

いったいどうして……!?

「星の涙」
 
その名前に俺の肩が大きく上がった。