「私は信じています。彼ならきっとアムール様と共にオフィーリアを助けてくれると」
 
私は胸の前で手を組み、地面に片膝を付いて神に祈りを捧げるように目を閉じる。
 
絶対に信じています。

彼が再び立ち上がり彼女の元へ行くことを。

だからどうかお願いします……アムール様。
 
ブラッドにあなたの力が必要なんです。

どうか……どうか……彼に力を。

「……神のお導きが……彼等にありますように」

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気がついて目を開けた時、どこに居るのか分からなかった。
 
随分と長いこと眠っていた気がする。

あの出来事からいったいどれだけの時が過ぎたんだ? 

何十? 

何百? 

それとも何千か?
 
まあ……何だって良いか。

どれだけの時が過ぎようとも、俺のやるべき事は目覚めた時から既に始まっているのだから。

『待っていてくれ、レーツェル。必ずお前を探し出して見せるからな』
 
あの時に言いそびれたこの思いを必ず伝えるためにも、まずはこいつが俺の主として相応しい人間かどうか、見極めなくてはならない。
 
いや……そもそも俺を鞘から抜いた時点で、この男が俺の主だと言うことは決まっている。

しかしこの男はどこかおかしい。
 
軽く頭の中を覗いてみたが、この男には忘却の魔法が掛かっている事が分かった。

失った記憶を思い出したくてもそれが出来ず、そのせいでこの男の中にある感情が暴れている。
 
その感情はこの男にとって一番大切な物であって、そしてそれは俺にとっても大切な物でもある。
 
失った記憶を取り戻す方法はある。

しかしそれはこの男自身が自分でやらなければならないことだ。
 
それまで俺は何もする事は出来ない。

だが呼びかける事は出来る。
 
本当にこの男が失った記憶を取り戻したいと思っているのなら、俺は全力でそのサポートをさせてもらうつもりだ。
 
この男が記憶を取り戻した時、それは俺本来の力をお前に貸す時だ。