「お、にい、さま?」
 
目尻に涙を浮かべて私はお兄様を見つめ下ろす。
 
どうしてお兄様がこんなことするの? 

どうしてそんな目で私を見てくるの? 

どうし私を……?

『アルバ! どうしてこんなことをするんですか!? 敵が目の前に居ると言うのに、どうしてこんな!』
 
お兄様は私からレーツェルへ視線を動かすと、ぽつりと呟くように言い放った。

「オフィーリアを……クラウン様に差し出すんだ」

『なっ!』

「っ!」
 
今確かにお兄様の口から【クラウン様】と言う言葉が聞こえた。
 
どうしてお兄様がクラウンをそう呼ぶの?! 

クラウンはお母様やエアの末裔たちを殺した憎き存在だと言うことを、お兄様だって知っているはずだ。

なのに……どうして!

「感謝するよ、アルバ。君は頼んだ通り、彼女をブラッド君から引き離してくれた。それにもう満足しただろ? 少しの間だったとはいえ【兄妹ごっこ】が楽しめたんだから」
 
クラウンの言葉に目尻に溜まっていた涙がそっと頬を伝った。

「……ブラッドから私を……引き離す? 兄弟ごっこって……なに?」
 
まさかお兄様は最初からクラウンの命令で動いていたの? 

私を助けるためにブラッドたちに力を貸した事も、聖母の愛大聖堂で再会した時も、そしてブラッドを守るように言って離れるように言ったのも、全ては私を彼から引き離すための行動だったの?!

「本当はお前の隣にずっと居て欲しい存在だと思っている。あそこまで妹のためにやってくれた人だ。幸せな日々を送るお前たちの姿を見てみたかった」
 
その言葉が脳裏を過った時、涙が溢れてボロボロと流れ落ちた。

あの言葉も……嘘だったんですか?

「本当にこれで約束は守ってくれるんですよね? オフィーリアをあなたに差し出せば、母さんとエアの末裔たち全員を生き返らせてくれるって」

「ああ、約束は守るよ。俺は約束を破らない主義だからね」
 
クラウンの言葉にお兄様は私の体を彼の元へと突き放した。