『オフィーリア? どうしたんですか!?』
 
レーツェルも私の様子がおかしい事に気づいたのか、心配そうに聞いてくる。

しかし今の私にレーツェルの声が届く事はなかった。

聞こえるのはたった一つだけ……。

「さあ、オフィーリア。約束通り君を迎えに来たよ」

「い、いやっ!」
 
その言葉を聞いて怖くなった私は、二・三歩後ろに下がった。

心臓の心拍数も上がって、そのせいで息遣いが荒くなってきて私は胸元を押さえた。
 
恐怖でガクガクと足が震えて嫌な汗が頬を伝る。
 
そんな私を横目で見ていたお兄様は、私を庇うように前に立った。

「お、お兄様……」
 
するとお兄様の姿を見たクラウンは一瞬表情を歪めると、何かを思い出したように口を開いた。

「あ〜……思い出したよ。君は確かオフィーリアの実兄であるアルバだったね」

「クラウン……」
 
お兄様は低い声でクラウンの名前を呼ぶとギロリと睨みつけた。

そんなお兄様にクラウンは軽く笑みを浮かべた。

「ふっ。そんな怖い顔をしないでくれよ。君は俺がここに来た理由を、ちゃんと分かっているはずだと思うけど?」

「……えっ?」

「……っ」
 
お兄様は数秒クラウンを見つめた後、なぜか握っていた短剣を鞘に戻してしまった。

その光景に私は目を見張った。

「お、お兄様?!」

『どうしたんですかアルバ!? なぜ剣をしまうんですか?!』
 
レーツェルの言葉にお兄様は何も言うことなく、こちらを振り向くと光を失った碧眼の目で私を見下ろしてきた。

「っ!」
 
その目を見た私は後退った。

しかしお兄様は逃しまいと思ったのか、私の右手首を力強く掴むとレーツェルを取り上げた。

「れ、レーツェル!」
 
そしてそのまま私は胸倉を掴まれ、軽々と持ち上げられた。

「うっ!」
 
お兄様はレーツェルをその場に捨てると、右足で思い切り踏みつけて彼女の動きを封じた。