「まさか……これか?」
 
そう思いながら剣をじっと見下ろしてみるが、反応は特に何も見られなかった。

まさか幻聴だったのだろうか?

「老婆の幻を目にした次が幻聴かよ……」
 
そう小さく呟きながらとりあえず剣を鞘に戻した。
 
老婆の姿が見られない以上、この剣を返すのは難しいだろう。

ここに置いていって変な奴に持って行かれてもあれだしな……。

「しょうがない……預かるって事で持って行くか」
 
そう言いながら剣を腰から下げた時、凹みの中に浮かんでいる石が一光した事に俺は気づかなかった。

✭ ✭ ✭

「そうか。魔剣マールの回収は難しいか」

「はい……」
 
お兄様と合流した私たちは人気のない路地へと入り、セイレーンとのやり取りを報告していた。
 
私の話を聞いてお兄様は被っていたフードを下ろすと深く溜め息を吐いた。

「魔剣マールを回収しにこの街へやって来たが、どうやら無駄足だったようだな。マールが手に入らないなら、他の魔剣を優先して行動しよう」

『あと居場所が分かっているのは、魔剣サファイアだけです。しかしサファイアは魔法協会が厳重に保管しています。私たちだけで回収するのは無理に等しいと思います』
 
レーツェルの言葉にお兄様は胸の前で腕を組むと目を細めた。
 
確かに私たちだけでは魔剣サファイアを回収することは難しい。

それにサファイアが素直に私たちに着いて来てくれるかも分からない。

「レーツェル。サファイアはどんな人なの?」

『そうですね……私の知っている彼女のままならば、私たちに力を貸してくれるはずです。しかしサファイアは氷結の力を持った魔剣です。彼女自身が氷結の力を持っていた事も関係していますが、魔剣となってからはその力がどんな風に働くのかは、私でも分かりません』

「それにサファイアは、ここ何百年と主を選んでいない。もしかしたらサファイアの主になるには、何か必要な条件があるのかもしれないな」
 
もしそれが本当だったならサファイアが主を選ばないのも納得がいく。

その特別な条件を満たした人物が、何百年と姿を見せていないのだろう。

だからサファイアは主を選ぶことがなく、魔法協会が厳重に保管しているんだ。