「えっ!」
 
驚いた俺は咄嗟に柄から手を放してしまった。

剣はそのまま下に落下すると鈍い音を立てる。

「な、んで……」
 
足元に落ちている剣を見下ろした後、俺は老婆へと目を戻した。
 
すると老婆は最初からこうなる事が分かっていたのか、俺と足元に落ちている剣を交互に見ながらニコニコと笑みを浮かべていた。
 
そんな老婆の様子を疑問に思った俺は問いかける。

「どうして笑っているんだ? 俺を騙したのかよ?」

「いんや、騙しておらんよ。ただその剣はちょっと特殊な存在なんよ」

「……特殊な存在?」
 
俺の言葉に軽く頷いた老婆は最後に言う。

「ようやく主が見つかったよ、アムールよ」
 
その言葉を最後に目を瞬かせた時、目の前に居たはずの老婆の姿はなくなっていた。

「っ!」
 
そのことに気がついた俺は慌てて辺りに目を配った。

しかし今この場に居るのは俺だけで、他に人が居る気配は特に感じられなかった。

「……幻だったのか?」
 
ふとそんな考えが頭を過ったが、足元に転がっている剣が夢ではないと語っていた。

数秒その剣を見下ろした俺は柄を持って持ち上げて見る。
 
刀身は炎のように真っ赤だった。

柄頭には青紫色とピンク色の紐が付いていて、切っ先近くの棟には月の形をした小さな凹みがあった。

その中にはルビィの宝石のように紅く輝いている石が浮かんでいる。

「宝石か?」
 
宝石かどうか気になった俺は、それに触れようと手を伸ばす。

そしてその時だった。

『お前か? 俺の力を求めるのは――』

「っ!」

突然、頭の中で知らない声が流れて心臓が大きく跳ねる。

「だ、誰だ!」
 
声の主にそう問いかけるが、頭の中で流れた声はそれっきり聞こえず、俺は辺りを警戒しながら剣に目を戻した。