っ!」
 
俺はその手を払い除けたかった。でも、その行為を俺の中にある何かが拒んだ。
 
そして彼女の好意を受け入れようとした。
 
俺はトトじゃない。俺はお前なんかの――
 
そう叫びたかったのに、俺はそれを許さなかった。

俺の中にある何かが、彼女の事を欲していた。

彼女の手、体、瞳、そして唇、彼女の全てが欲しいと、その欲望に俺の心が満ちていく。

「エア……」
 
俺は震える手で彼女に向かって手を伸ばした。

「……トト。私の……トト」
 
伸ばした手が彼女の頬に触れそうになった瞬間、俺の首から下げられていた守護石が、俺を守るように光を放った。

「――っ! これは……守護石?!」
 
守護石はエアを拒むように俺から遠ざけ、同時に俺の体を誰かが優しく後ろから抱きしめた。

「――ブラッド」

「っ!」
 
そして確かに聞こえた。彼女の、オフィーリアが俺の名を呼ぶ声が。

「……守護石。どうして私を拒むの? 私はただ、トトに触れたかったのに!」
 
レーツェルやアルたちも、元エアの持ち物だった守護石が、彼女を拒んだ事に驚き、守護石とエア二人に目を配っていた。

「……それはきっと、守護石が嫌だと思ったからだろ」

「えっ?」
 
俺は伏せていた顔を上げて、ギロリとエアの事を睨みつける。そんな俺の姿に驚いた彼女は、一歩後ろへと下がった。
 
そんな彼女の隣にクリエイトもやって来ると、じっと俺の事を見つめた。

「どうして……拒む? エアは……君をトトに選んだ。なのに、どうして拒むの?」

「拒む? ふん、そんなの当たり前だろ。俺はお前のトトじゃない。トトでもない。俺はブラッドだ」
 
そう言って、俺ははっきりと拒絶する姿勢を見せた。
 
するとエアは体から力が抜けたように、その場に座りこんだ。

「っ! エア!」
 
レーツェルは慌ててエアの側に寄ろうとしたが、それをアルが止めに入った。

「行くな! レーツェル!」

「し、しかしアムール様! 今私たちの前にはエアが……エアが居ます!」

「あぁ、それは分かってる! でもお前も見ただろ! さっきのあいつの目を!」

「っ!」
 
それはさっき自分たちに向けられた、冷たい眼差しの事だった。

その事を思い出したレーツェルは、辛そうに表情を歪めた。

「……いいえ、あなたは確かに、私のトトです!」
 
エアは涙を流しながら、そう俺に向かって叫んだ。

「だって、だってあなたはトトなのです! 私が望んだ……! 彼が本当になりたかった姿こそ、あなたなのですから!」

「っ!」
 
その言葉を聞いて、俺は夢で見た事を思い出した。