「なあ、ベータ。どうしてお前は――」

「私はただ、後悔したくなかったんだ」

「えっ?」
 
ベータは俺の言葉を遮るようにそう言うと、彼女もまたクラウンへと視線を移動させた。

「あの右目……。クラウン様はあの目を隠すように、ずっと右顔だけに仮面を付けるようにしていた。おそらく、その仮面に何かしらの力が働いていたのかもしれないが、クラウン様の話を聞いて、私の中である考えが浮かんだ」

「ある考えだと?」
 
ベータの言う通り、確かにクラウンは常に右顔だけに仮面を付けていた。

俺はずっとその理由は右目を隠しているからだと思っていた。

しかしよく思い返してみれば、あいつは右目の魔力を使う時だけは、必ずと言っていい程に仮面を顔から外していた。

「これは私の考えであって、あくまでも予想の一つに過ぎない」

「話してくれ、ベータ。お前の中に浮かんだ、ある考えってなんだよ?!」

「……あの右目はおそらく――『義眼』だ」

「ぎ、義眼!?」
 
その言葉に俺たちは驚いた。
 
あの右目が義眼だと?! 

しかしあの右目をクラウンは、黒焔の目本体だと言っていた。

それなのに、なぜあの右目が義眼だって思ったんだ。

「あの右目が本当に黒焔の目本体だと言うのなら、クラウン様の周りを飛んでいるあれは一体何だって言うんだ?」

「それは……」

「あの右目が本体なら、なぜあの黒焔の目はクラウン様の周りを飛んでいる? 本来なら右目にいるはずだろ? だから私は、あの右目は義眼だと思っている。しかし義眼と言っても、魔力をためる事が出来る雫みたいな物だろう。きっとあの右目は、クラウン様が付けていた仮面と通して、右目に魔力を集めているんだ」

『ではあの義眼を破壊すれば、クラウンの魔力供給源がなくなって』

『……黒焔の太陽の魔力を抱えている器がなくなる』

「っ!」
 
二人の話を聞いた俺は、右目を抑えているクラウンへと視線を送った。
 
するとクラウンの周りと飛んでいた黒焔の目は、ピタリと動きを止めると、その場でプルプルと震え始める。

「私が右目を傷つけた事によって、あの義眼からはあの黒焔の目玉が吸収した魔力が膨大に溢れ出る。そうすれば、あの黒焔の目をこの世に繋ぎ止められなくなる。そして同時にクラウン様の体もまた、溢れ出る膨大な魔力に耐えきれずに……消滅する」

「……ベータ」
 
サファイアはクラウンの様子を伺いながら、俺たちの側へ飛んできた。

「ブラッド、今がチャンスだ」
 
その言葉を聞いて、俺はベータの体をそっと寝かせる。

「……ブラッド。お前に……頼みがある」

「……何だよ?」
 
ベータはゆっくりと俺に手を伸ばし、その手を俺も優しくそっと握り返した。