「いい加減にしてくれよ! お前は俺に何を伝えたいんだ!!」
 
どうして彼女の顔が見えなくされているのかは分からない。

でも……それでも俺は!!
 
左目から一滴の涙は零れ落ちた時、聞こえなかった言葉の一部分が聞こえた。

「その【魔剣】の名は?」

「魔剣アムールよ」
 
その言葉を最後に頭の中に流れた記憶はぷつりと途絶えた。

「はあ……はあ……魔剣?」
 
荒くなった息を整えながら、額に浮かんだ汗を拭った。
 
そうだ……。

俺は彼女と魔剣アムールを探すと約束したんだ。

しかし魔剣の事を思い出せても、彼女の事は何一つ思い出す事が出来なかった。

手掛かりだって見つけられなかった。

まるで……彼女の事だけを思い出せないようにされたような……。
 
真っ黒なペンで塗りつぶされていた彼女の顔を思い出して、頬に汗が流れ落ちたとき老婆の声が耳に入った。

「兄さんや? 顔色が悪いようだけど、何かあったのかい?」

「い、いや……別に」
 
そう言って老婆から視線を逸した時、俺の目にある一本の剣が飛び込んできた。

「……なんだ?」
 
一見普通の剣に見えるそれからは微かだけど魔力が感じられた。
 
俺の視線の先に気がついた老婆は、クスリと笑うとその剣を取って見せた。

「これはただの錆びた剣じゃよ。この通り……鞘から抜けんのよ」
 
老婆はそう言って鞘から剣を抜こうとする。

しかし老婆の言う通り錆びているせいなのか、剣はびくともしなかった。
 
老婆は諦めて軽く息を吐くと、今度はそれを俺の方へとよこした。

「お兄さんもほら、良かったらやってみぃ」

「……」
 
俺は仕方なく老婆から剣を預かり、柄を握って鞘から剣を抜こうと試みた。
 
錆びていてびくともしないんじゃ、俺だって抜けそうにないんだけどな……。

そう思いながら渋々力を込めて柄を引っ張った時だった。

錆びてびくともしないはずのその剣は、何故か簡単に鞘から抜け出た。