「……ブラッド。このままでは本当に、この場で全員が死ぬ事になるぞ」

「……そんなこと言われなくたって分かってるさ。だから今……考えてるところだ」
 
黒焔の目は神の守りを美味しそうに食べ尽くすと、そのままクラウンのところへと戻っていった。
 
そしてその時、俺はクラウンの背後に立った人物を見て目を見張った。

「ベータ?!」
 
ベータは腰にあった剣を構えていた。

そして自慢のスピードを使って一気にクラウンとの距離を縮めると、思い切り剣を振りかぶった。

「やめろ!!! ベータ!!!」

「はぁぁぁぁ!!!」
 
クラウンはそんなベータの方へ視線を送ると、ニヤリと笑みを浮かべた。

「ふっ……そう言えば君も居たんだったね」

「っ!」
 
クラウンは糸も簡単にベータの攻撃を避けると、そのまま勢い良く彼女の首をワシ掴んだ。

「かはっ……!」
 
その拍子に彼女の手の中から剣は溢れ落ち、同時に彼女の髪を束ねていた青紫色のリボンをひらりと解けた。

「本当に君は馬鹿だね。アルファとガンマが俺に殺されたって知っているはずなのにさ、何で逃げようとしなかったの? 今のこの状況なら、君一人くらい逃げられたと思うけど?」

「……っ。私は……逃げ、ません。あなたを置いて……逃げられるはずがありません!」

「……ふっ。君はずっと俺に心から忠誠を誓ってくれていた。だからアルファとガンマよりも利用しがいがあった。だって君は、俺の事が好きだったからね」
 
ベータは目尻に涙を浮かべると、クラウンの言葉に目を閉じた。

「は、い。……私はクラウン様を、ずっと……お慕いしていました。……でも、それは――」

するとベータはカッと目を強く見開くと、左袖の中から隠しもっていたナイフを掴み、そのまま勢い良くナイフをクラウンの右目へと突き刺した。

「なっ!!」
 
その光景にこの場の誰もが驚いて目を見張った。

「ぐぁぁぁぁぁ!!」
 
悲痛な声を上げるクラウンは、ベータの体を左手で大きく飛ばすと、その場で右目を抑えて座り込んだ。

「ぐうぅぅぅぅっ! くっそぉぉぉぉぉ……!!」
 
俺はその場から瞬間転移して、飛ばされたベータの事を抱きとめた。

ベータは閉じていた目を開くと、ゆっくりと俺の顔を見上げた。

「……ブラッド」

「ベータ! 良かった……生きてて」
 
ベータが生きている事が確認出来た俺はホッとし、その場にうずくまっているクラウンへと目を戻した。