「っ!」

その言葉を聞いて目を見張って顔を上げた時、今さっきまでそこにあったはずのガンマの姿がない事に気がついた私は辺りに目を配った。

「ガンマ?!」
しかし辺りに目を配ってもガンマの姿はどこにも見当たらない。

ただその場に残っていたのは、彼が身につけていた衣類だけで、ガンマの姿だけが忽然と消えてなくなってしまっていた。
 
私は足元にある衣類を見下ろして、右手を伸ばして掴みあげる。

そして掴んだ服に顔を埋めて涙を流し始める。

「うっ……ガンマ……! ……アルファ……!」
 
私は膝から崩れ落ち蹲って泣き始める。
 
結局……私は二人を助ける事が出来なかった。

家族を守るために身に着けたこの力は、一体何の為にあると言うのだ!? 

こんな……誰も救えない力なんて……要らない! 

私が望んだ未来は……こんな物じゃなかったはずだ! 

そう、私が望んだ未来は……家族みんなが笑って過ごせる幸せな未来だったはずだ。

「……私は、どうしたい?」
 
もうアルファやガンマは側には居てくれない。

だからこの答えは自分で見つけ出さなければならない。

もう誰かの為になんて考えを持つのはやめよう。
 
今考えなくちゃいけないのは、自分が後悔しない為にどうしたら良いのか考えることだ。

「……私は!」
 
私は伏せていた顔を上げてクラウン様の姿を瞳に映してから、ブラッドへと視線を移動させた。

そしてガンマの言った言葉を思い出した。

「よく考えてみろぉ。普通クラウン様があの紅い瞳を右目に宿したなら、もう一つ残っているのは左目の紅い瞳だろ?」

「っ! ……まさかあの右目」
 
私の中でとある考えが過り、私は覚悟を決めて立ち上がった。

✭ ✭ ✭

『ブラッド! しっかりしろ!』

「……ああ、分かってる」
 
俺は深く深呼吸して何とか自分自身を落ち着かせる。

そしてアムールの切っ先をクラウンへと向ける。

「ふ〜ん。俺の話を聞いて動揺はしているようだけど、それでもまだ俺と戦うって言うんだね」

「当たり前だ! たとえこの右目が俺の感情を食らっていたとしても、お前の手の上で踊らされていたとしても、俺のやる事は何一つ変わらねぇ!」
 
思い切り方足を踏み込み、アムールに魔力を注ぎながら俺はクラウンへと向かって行く。

「俺はお前を殺す! それだけは絶対に変わらねぇ!!」
 
そう力強く叫びながらアムールを振りかぶる。

しかしその時、俺の目の前に再び黒焔の目が姿を現した。