「レギオは言っていた。あの右目には元々ちゃんとした持ち主がいたそうだ。しかし恨みや憎しみと言った負の感情が頂点に達し、瞳は血色のような真っ赤な瞳に変化を遂げた。だからあれは紅い悲鳴と呼ばれるようになったらしく、その右目の封印を説く鍵って言うのが、右目の持ち主が持っていたルビィの宝石だとよぉ」

「だからクラウン様はレギオを使って、ブラッドの右目の封印を解いたのか……。じゃあクラウン様の右目も同じ物なのか?」

「いや、おそらく違うなぁ。クラウン様のあの右目は精霊を食らう事によってその力を自分の物に出来るらしいがぁ、ブラッドの場合は自分の感情を差し出す事で、その感情を自分の力として使う事が出来る。だからあれは同じ紅い瞳ではあるが、全くの別物と考えた方が良いだろうよぉ」
 
ガンマはそう言いながらゆっくりと立ち上がった。

しかしその拍子に手当したばかりのところから再び血が流れ始める。

「ガンマ! 今動いては駄目だ!」

「そんなの今更だろうよぉ。どうせ俺はもう死ぬしかねぇんだ」

「……ガンマ」
 
その言葉を聞いて私は拳に力を込めた。

「……ベータ。お前は俺の事よりも自分がどうしたいか考えろぉ」

「……どうしたいか?」

「ああ、そうだぁ。このまま何もしないでじっと見ているのか、それともクラウン様の事を助けるのかぁ」

「それは……」

 私はここに来るまでに自分がブラッドに言った事を思い出した。

「私にとってクラウン様は……他の何よりもかけがえのない人……。そんなあの人に死ねと言われたのなら、私は喜んでこの命を捧げるつもりだ」
 
ここに来るまで確かに私はそう覚悟を決めていたはずだった。

でもシエル様とアルファの傷ついた姿を見て、そんな覚悟は一瞬にして吹き飛んだ。
 
そしてアルファの言った【僕はこの命を最初からセシルのために使うって決めていたんだよ】の言葉を聞いて、私の覚悟に比べたらアルファの方がずっと、決して揺らぐ事のない覚悟を最初から持っていた事に気がついて、私はどうしたら良いのか分からなくなってしまった。

「……ベータ。俺からお前に言える事は一つだけだぁ」

「……ガンマ?」
 
ガンマは私の頭に手を置くと言う。

「絶対後悔だけはするなよ」