ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

『ブラッド! あいつの言葉に耳を貸すな!』
 
アルの言葉が頭の中に響く、しかし今の俺の耳にはクラウンの言葉しか届かなかった。

「でも雫の研究をする事とは別に、俺とギルはこの二つの右目の研究もしていた。一つは魔法に宿った精霊たちを食らい、自分の力の一部にする事が出来ること。そして二つ目は……【自身の感情を対価として差し出す】事で、自分の力にする事が出来ることだ」

「……自分の感情を対価として差し出すことで……自分の力にする事が……出来る」
 
その言葉を聞いて俺はあの時の事を思い出した。
 
女神の涙に予告状を出しに行った日、レギオの部屋で見つけたルビィの宝石を見た時、俺は確かに女の声を聞いた。

そう、その女はこう言っていた。

「頂戴、頂戴、頂戴、頂戴、あなたの感情を――」

「――っ!」
 
あの時の事を思い出した俺は胸元の服をくしゃりと強く掴んだ。

『ブラッド?! どうしたんですか?!』

「はあ……はあ……はあ……」
 
思い返してみれば、俺は何度も色んな感情に自分自身が囚われそうになった事がある。

主にそれは敵に対して抱いた負の感情の物が圧倒的に多い。
 
でも気づいた時にはもう、俺の中にあったはずの負の感情は忽然となくなっている事があったように思える。

もしかしたら俺は……無意識的に右目に自分の感情を差し出していたのか? 

アルファやクラウンたちに抱いた憎悪の感情や、オフィーリアを救えなかった自分へ対する怒りの感情も、自分が楽になりたくて差し出していたんじゃないのか? 

じゃあ……オフィーリアを愛した感情も、俺は右目に差し出したんじゃ……。

「どうして俺が君のその右目をあげたと思う?」
 
クラウンの声が耳に届いた時、俺は伏せていた顔を上げて両目にクラウンの姿を映した。

そんな俺の姿にクラウンは軽く笑うと話を続ける。

「君にその右目をあげたのはね、全てこうなるって分かっていたからなんだよ」

「……は?」

「つまり……君がその右目を使いこなせるようになる事も、元の体に戻るために星の涙を探し始めることも、そしてあの場所でブラッド君がオフィーリアに出会うことも、俺は全て知っていたんだよ!」

「っ!」
 
クラウンはそう言いながら俺を嘲笑うように見てくる。

そんなクラウンを見た俺は悔しい気持ちでいっぱいになった。