ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「レーツェル!!」

「……アムール……様」
 
レーツェルはアルの姿を見てホッとしたのか、目の前にかざしていた両手を下ろす。

しかし直ぐに彼女の体は後ろへと傾き、アルの腕の中に倒れ込んだ。

「レーツェル!!」
 
アルはレーツェルの体を抱き止めると、そのままゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。

「レーツェル……。何であんな無茶をした?! 下手をしたらお前があいつに食われていたかもしれないんだぞ!」

「……アムール様やブラッドが命を掛けて戦っていると言うのに、私だけ黙って見ているわけには行きません。私だって……アムール様やブラッドを守りたいんです」

「だが! ……そのせいでお前が死んだら……俺は!!」
 
レーツェルの言葉にアルは辛そうに表情歪めると、彼女の体を強く抱きしめた。

二人の姿を後ろから見ていた俺は、申し訳ないという感情にかられた。

「レーツェル! ……ごめん。俺のために」

「ブラッド。別に謝る必要なんてないんですよ? これは私がしたいと思ってやった事ですし、それにこれしか私がお二人に出来ることなんてないんです」

「……ありがとう、レーツェル」
 
その言葉にレーツェルは優しく微笑むと、今度はアルの顔を覗き込むとじっと顔を見上げた。

「アムール様。私は大丈夫ですから、今はあの黒焔の目を倒す事だけ考えて下さい」

「………………分かった」

レーツェルの言葉にアルは長い沈黙の後、辛い顔を浮かべながらも彼女に頷いて見せた。

「でも……どうして黒焔の目がブラッドの目の前に居たんだ? だってあれは確かに動きを封じたはずだ」
 
アルの言葉に俺たちは、レーツェルが弾き返した黒焔の目へと視線を移動させた。

しかしその存在は既にそこにはなく、クラウンの周りを悠々と飛んでいた。
 
その光景に俺は目を細めてから、さっき拘束したはずの黒焔の目が居た場所へと視線を移動させた。
 
だが案の定、そこには拘束したはずの黒焔の目の姿はなく、俺が放った魔法の斬撃だけが深く残っていただけだった。
 
俺は立ち上がってクラウンへと視線を戻す。

「クリエイトの能力だろ?」

「っ!」
 
その言葉にレーツェルとアルは目を見張った。

「本当にお前は俺に幻影を見せるのが好きだよな。だったら最初から使えよ」