ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

すると自分に向かって放たれ斬撃に、黒焔の目は再び大口を開くと飲み込もうとする。

しかし俺はその瞬間を与えないように、次の魔法の詠唱を始める。

「詠唱……面倒くせぇから省くぞ!」
 
そう言って俺は黒焔の目に向かって右手をかざし、光と白の精霊の力を使って魔法を発動させる。

閃光(フラッシュ)!!」
 
魔法の発動と共に辺りを大きな閃光が襲った。

その眩しさに黒焔の目も思わず目を細めざるを得なかった瞬間を、俺は見逃さなかった。

光の鎖(ライトチェイン)!」
 
黒焔の目が浮いている下から光の鎖が勢い良く飛び出すと、それは黒焔の目の動きを封じるために体に巻き付く。
 
そして俺が放った斬撃がそのまま黒焔の目へと直撃した。

「よし!」
 
これであいつは俺が放った魔法を食べる事が出来なかった。

攻撃だって避ける事は出来なかったし、それなりのダメージを与えられたと思う。

内心そう思いながら軽く息を吐こうとした時、俺は右目が勢い良く反応を見せた。

「――っ!」

そして瞬きをした瞬間、黒焔の目の存在が俺のすぐ目の前にあった。

「なっ?!」
 
なぜこいつがここに居る?! 

だってあいつの体は今光の鎖で拘束されていて、直ぐ動く事なんて出来ないはずだ!
 
黒焔の目は閉じていた目をゆっくりと開くと、ギョロッと目玉を一周させてから大口を開けて、俺の存在ごと食らいつこうとした。

「まずいっ!」
 
食われる! 

そう思った瞬間、腰にあったレーツェルが元の人間の姿に戻ると瞬時に魔法を発動させた。

「光と加護の精霊たちよ、あなた達の力を持って私たちを守って下さい! 神聖なる盾(アギオアスピス)!」

『レーツェル!?』
 
頭の中でアルの焦った声が聞こえたのと同時に、俺たちの目の前に白く鋼色の盾が姿を現すと、それは黒焔の目の存在を勢い良く後ろまで弾き返した。

「はあ……はあ……」
 
とっさの出来事で俺は呆気に取られた。

そして目の前で大きく深呼吸しているレーツェルの姿を見上げて、俺は今さっきの出来事を遅れて理解した。
 
黒焔の目に食われそうになった瞬間、レーツェルが俺を守るために急いで魔法を発動させたてくれたんだ。

その事に気がついて慌ててレーツェルの側へ行こうとした時、俺よりも真っ先にアルが元の姿に戻ると彼女の元へと駆け寄った。