『あ、あれは！　ブラッド！　あれが黒焔の太陽です！』
　
レーツェルの言葉に俺は、クラウンの目の前で浮いている黒焔の太陽を目に映した。

「あれが……黒焔の太陽……」
　
大きさは俺が想像していた物よりも凄く小さい物だった。

てっきり太陽と同じくらい大きな存在かと思っていた。

『レルル！　アルル！』

「――っ！」
　
そのとき頭の中に聞き覚えのない声が聞こえた。

『その声……もしかしてマールですか？！』

『そうだよ！　レルル！』
　
マールと言う名前を聞いた俺は軽く目を見張った。

そして少し離れた場所で、こちらをじっと見てきている女性の姿を見つけた。

「まさかあいつ……」
　
魚人族のセイレーンか？　

そんな考えが頭の中を過ぎった。

しかし彼女はクラウンと激しく戦った後だったのか、後ろにある瓦礫に体を預けながらぐったりとしていた。
　
その様子に俺は右目を使って彼女の雫の状態を見てみた。

そして彼女の今の魔力量を見て驚いた。
　
魔剣マールの主であるセイレーンは、近い将来魚人族を背負って立つと言われていた存在だ。

それにセイレーンの歌声はどんな老若男女でも虜にしてしまうと言われ、その歌声を使って自分たちを狙ってきた賊たちをみんな海の中へと誘い、そのまま殺してしまったという噂がたくさんあった。
　
だからこそそんな人物の側に魔剣マールがあると言うのは、魔法協会にとっても厄介な事だったんだ。
　
魔剣マールの力を使えば、この世界を海で覆い尽くすことなんて簡単だ。

だがそれにはそれなりの魔力量が必要となってくる。

魚人族は俺たち人間族と違って寿命が遥かに長い。

だからその気になって自分を鍛え上げれば、この世界を海で覆い尽くす事が出来る程の魔力を手に入れる事だって出来る。
　
戦い方次第では魔力を殆ど消費する事なく、最後まで戦い抜く事が出来るだろう。
　
でも今この場に居るセイレーンの魔力はごっそりとなくなっているように見えた。

そのせいで体を上手く動かす事が出来ないんだろうけど、魔剣マールの力を扱えるなら、マールの力を使ったとしてもセイレーンなら余裕で立っていられるはずだ。
　
しかし彼女は何とか気を失わないように保ちながら、俺のことをじっと見てきて何かを訴えかけているようだった。