『でも彼ならきっと、あなたに手を差し伸べてくれると私は思います』

「レーツェル……」

『例えあなたの事を忘れてしまった彼でも、あなたが助けを求めれば必ず力を貸してくれるはずです。たった短い間でしたが、彼を見て私は心からそう思えるようになったのです』
 
レーツェルの言葉に私は顔を伏せる。
 
本当にそうだろうか? 

こんな見ず知らずの私を……ブラッドは助けてくれるのだろうか? 

でも私が彼に助けを求めてしまったら、また命を危険に晒させてしまう。

それだけは……。

『さあ、彼の元へ戻りますか?』
 
彼女の問いかけに、私は少し間を空けてから頭を左右に振った。

『オフィーリア……』
 
私は足に力を込めて立ち上がり、涙を拭って真っ直ぐ前を見据えた。

「私は……覚悟を持って彼から離れました。それだと言うのに、何も出来ないまま彼に助けを求めるわけには行きません」
 
きっと今ブラッドに会ったら、絶対に助けを求めてしまう。

私自身がやり遂げなければならない事を、一つも成し遂げないまま助けを求めたくない。

「行きましょう、レーツェル。マールのことは私からお兄様に報告します」
 
そう言って私は広場の方へと目を戻し軽く細めたのだった。