アルファはセシルの為に自分の命を使うと決めていて、ベータもまたクラウンの為に自分の命を捧げようとしていた。

それはお互いにとってそれぞれの覚悟なのだろうが、アルファが言うのとベータが言うのとではどこかが違う気がした。
 
アルファはさっき言った通り、セシルの為にその命を使うと言う強い覚悟が伝わってきた。

でもベータからはどこか迷っている感じが伝わって来ていた。
 
それがきっとアルファとベータの違いなのかもしれない。

現にアルファはこれからセシルの為に使った命の灯火が消えかかって居るのだから。

「だからさ……ベータ。僕は満足なんだよ。これで……彼女の元へ行けるのだから」
 
アルファの体のヒビ割れは首元まで広がり、その姿を見たベータは辛そうに目を逸した。

「……何の未練もないって言ったら、最後になるけどさ……」
 
アルファはクラウンへ視線を送ると、ゆっくりと目を閉じた。

「最後に……もう一度だけ……父さんって呼びたかったよ……」
 
首元まで来ていたヒビ割れが最後一気に頭まで走ると、アルファはそのまま後ろへと倒れ込んだ。

「あ、アルファ!!」
 
しかしその時その体を、後ろから大怪我を負ったガンマが支えた。

「が、ガンマ!」
 
ガンマが体に負った大怪我を見ながら俺は内心驚いていた。

左手を失い左胸の心臓近くには大きな風穴が空いていると言うのに、よく動けるなとそう思っていた。

「……お疲れ……アルファよぉ。もう安らかに眠れ」
 
ガンマはアルファの体をセシルの隣に寝かせると、お互いの手を掴み合うように重ねてあげた。

ベータは直ぐにガンマの体に治癒魔法を掛け始めるが、それをガンマは拒んだ。

「無駄だ、ベータよぉ」

「無駄じゃない! 無駄なんかじゃ……!」
 
ベータはガンマの大怪我を目にしながら、涙を流して治癒魔法掛けている。

そんなベータを見たガンマは深々と溜め息を吐くと俺に視線を送った。

「ブラッド。これからクラウン様とやり合うんだろ?」

「……ああ」
 
俺は一言そう言い放ち立ち上がった。

「あいつだけは……あいつだけは絶対に許すわけには……行かねぇんだよ!」
 
俺は殺気を放ちながらクラウンへと体を向き直した。

そんな俺の姿を見たクラウンはニヤリと笑みを浮かべた。