「ありがとう……」

「っ!」
 
その言葉にアルファは驚いて目を見張っていた。

しかし直ぐに苦笑した笑みを浮かべると、目を瞑っているセシルの頬を優しく撫でた。

「……アルファ!」
 
すると上からじっとこちらの様子を見ていたベータが、アルファの姿を見て青ざめた顔を浮かべながらこちらへと降りてきた。

「……ベータ」

「お前! その体……」
 
アルファは自分の左手に走ったヒビ割れを見ると、自分の死を悟ったのか満足気に笑うと自分の左耳に付けていたピアスと外すと、それを俺に投げて寄越した。

「……これは?」

「これまで僕が書きためた日記のデータが、その中に全て入っています。その日記の内容は、僕たちが今までして来たことの全てが書かれています」

「何で俺にくれるんだ?」

「あなたには……知っていて欲しいからです。僕たちのことを……。もし要らないと思ったり、読みたくないと思ったらそれはそれで構いません。壊すなり、魔法警察に差し出すなりしてもらって構いません」
 
アルファの言葉を聞きながら、俺は受け取ったピアスを左耳に付ける。

「……後で読ませてもらうよ」

「……そうですか。それは……良かったです」
 
ベータはアルファの体に治癒魔法を掛けいるが、体全体に走ったヒビ割れはどんどん広がっていく一方で、もう誰も止める事が出来るものじゃなくなっていた。
 
アルファは自分の体に治癒魔法掛けているベータの体を押し返し言う。

「ベータ……ごめんね」

「あ、アルファ!」

「僕だって本当は……クラウン様の事を裏切りたくなかった。でも前にクラウン様は僕に言ってくれた。君自身が傷つかないないように、最善の選択をして欲しいって。だからこれは僕が選んだ最善の選択なんだよ。だから……そんな悲しそうな顔をしないでよ」

「っ! 馬鹿な事を言うな! 大切な……家族が死にそうになっているって言うのに、悲しい顔をするなだと?! ふざけるな!! 私はあれほどお前に忠告しただろ! それ以上体を酷使したら、もう体の再生は出来なくなるって!」

「うん、ほんとうるさいくらい僕に忠告してくれたよね。でもね、ベータ。僕はこの命を最初からセシルのために使うって決めていたんだよ」

「っ!」
 
アルファのその言葉にベータは目を見張り、俺もまたさっきベータが言っていた言葉を思い出した。