ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「……………………は?」
 
俺の顔を見ているとあの頃のクラウン顔が過る? 

……クラウンの顔が?
 
その言葉に怒りを覚えたのは言うまでもない。

「おい……! 誰が誰の顔を見ると誰の顔が過るだって?!」
 
俺は怒りで体を震わせながら拳に力を込めて、今直ぐベータを殴り掛かる体勢を取った。

「おんまぇ! ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! どうして俺の顔をみてクラウンの顔が浮かぶんだ! あいつの顔と俺の顔は似てねぇだろ!」
 
こいつが女じゃなかったら……絶対殴ってた! 

ボコボコにして二度とそんなこと言えないようにしてやっただろう! 
 
でも一旦落ち着くんだ俺よ。

こいつは女だ。

女に手を挙げるだなんて、紳士のやる事じゃないだろ。

……久しぶりに紳士って言ったな……。

「良いか! 今回は殴らないでいてやるけど! 今度同じ事言ったら今度こそ殴るからな!」
 
そう言って俺は胸の前で腕を組んでそっぽを向く。
 
しかしベータは何故か驚いた表情を浮かべて俺を見てきている。

そんな彼女の姿に俺は首を傾げた。

「……まさか知らないのか?」

「はあ? 知らないって何だよ?」
 
俺の問いかけにベータは視線を下げると俺に背を向ける。

「いや、知らない方がお前のためでもあるな。今の言葉は忘れてくれ」

「は、はあ……?」
 
一体どういう意味なんだ? 知らない方が俺のためでもあるって?

「きゃああああ!!」

「っ!」
 
そのとき女の子の苦痛の叫び声が俺たちの耳に届いた。

その声に驚いた俺たちは、一斉に前方へと目を向けた。

「今の声は……シエル様?!」

「シエルだと?」
 
今の声からしてまさかエアになる事を拒んだことで、クラウンに痛めつけられているのか?! 

それとも――

「セシル!!!!」
 
その名前が聞こえた時、俺の心臓が大きく跳ね上がった。

「…………セシル?」
 
今確かにその名前が耳に届いた。
 
でもベータは声の主を【シエル様】と呼んでいた。

でもさっき奥の方で聞こえてきた名前は【シエル】ではなく【セシル】だった。
 
たった一人の大切な妹の名前を聞き間違えるほど俺は馬鹿じゃない。

でも……どうしてここでセシルの名前が出て来るんだよ? 

だってセシルは死んだはずだ。

俺は確かにあの時、セシルの無残な姿をした死体を見たのだから。