ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

でも俺から見てあいつがクラウンを裏切るようには全然見えなかった。

オフィーリアを攫いに来た時だって、聖母の愛大聖堂で俺と戦った時だって、あいつは【クラウン様のために】と言っていたし、そんなあいつがクラウンを裏切っただなんて未だに信じられないけど……。
 
俺は黒い煙を上げている研究施設を見上げた。

「クラウンが最初からアルファの裏切りを予測していたなら、きっとあいつは今日ここで自分の事を裏切ると考えていたはずだ。だから――」
 
そこで俺は今までの戦いの事を思い出した。
 
まさかあいつ……アルファが自分の事を裏切ると分かっていたから、わざと俺と戦うように仕向けたんじゃないのか?

「……っ」
 
しかしまだ確証が得られない。

もしあいつがそう考えていたんだとしたら、一体何の為に俺とアルファを戦わせた? 

俺に殺させるためにか? 

「私は……この目で確かめなければならない」
 
ベータはそう言うと俺に背を向けて、中へ戻って行こうとする。

しかし直ぐに数歩歩いたところで、彼女の体は大きく左右に揺れた。

「お、おい!」
 
俺は慌ててベータの両肩を掴んで支える。

「そんな体で中に戻るって言うのかよ? 今更戻ったところで、ただお前が辛い思いをするだけだぞ。それにクラウンはきっとお前たちを殺そうとして――」

「それでも構わない!」

「か、構わないって……」
 
ベータは俺の手を軽く払い除けると、とても複雑な顔を浮かべながら言葉を続ける。

「私にとってクラウン様……他の何よりもかけがえのない人……。そんなあの人に死ねと言われたのなら、私は喜んでこの命を捧げるつもりだ」

「っ!」
 
これがベータの覚悟なんだと思った俺は、それ以上は何も言う事が出来なかった。
 
それにこれはアルファやベータたちの問題であって、俺には一切関係のないことだ。

口出しする事じゃない。

俺がここに来てやることだって何も変わらない。

こいつらが死んだところで、逆に俺にとっては都合が良いじゃないか。
 
そう思った時、俺の右目が強い魔力を察知して大きく脈打った。