「だけど憎しみに囚われてしまったら、真っ直ぐ前を歩いて行く事なんて出来ないだろ。それじゃあ彼女の思いや願いを……無駄にしちまう。だから俺は……絶対に憎しみになんて囚われない。オフィーリアや俺自身のためにも」
 
その言葉にベータは目を見張った。

そして眩しいものでも見るかのように表情を歪ませると、半壊した壁の入口へと視線を送った。

「……私たちは今日シエル様に星の涙の移植をする予定だった。シエル様にクラウン様をこの世界のトトに選ばせるために」
 
やっぱりシエルが星の涙を入れる器だったのか。じゃあその移植は成功して……。

「しかしシエル様は星の涙の欠片を拒んだ」

「えっ?!」

「シエル様はこの世界のエアになる事を拒んでアルファに助けを求めた。そしてアルファもまたシエル様を助けて、そのままシエル様を連れて逃げようとしていた。そんな二人をガンマも逃してあげるために、クラウン様の事を裏切った……!」
 
一体どういう事なんだ?! 

シエルがこの世界のエアになる事を拒んだ? 

そしてアルファとガンマがクラウンの事を裏切っただと?! 

ガンマがクラウンを裏切るのは何となく分かるが、アルファがクラウンを裏切った事には驚いた。
 
だってあいつは常に【クラウン様のために、クラウン様のために】と言って動いていたはずだ。

それだと言うのに……あいつはクラウンよりもシエルという女の子を優先したってのか。

「私は……納得が出来なかった。クラウン様は私たちにとって命の恩人であり父親だ。アルファもガンマもそんなクラウン様に恩返しがしたいと言って、今まで行動して来ていた。なのに……なぜ!」
 
ベータは悔しそうに両拳に力を込めると暗い表情を浮かべる。

そんなベータの姿に目を細める。

「……でもクラウン様は、アルファが私たちを裏切る事を最初から知っているようだった」

「えっ」
 
クラウンはアルファが自分を裏切る事を知っていた? 

……いや、あいつだったら予想していてもおかしくないか。