「アルファとガンマの姿が見えない。ベータがここに居るって事はまさか中に居るのか?」
 
でもなぜベータだけがここで気絶して倒れていたんだ? 

それにこの辺りは他の場所と違って被害が大きくない。

まさか誰かがベータをここまで運んで来たのか?
 
そう思いながら、俺はベータの直ぐ側にあった血痕を見下ろした。

そしてそれが半壊している壁まで続いている事に気がついて目を細めた。

「おそらくここへベータを連れて来たのはガンマだ。きっと気絶した彼女をここまで連れて来て、自分は中に戻ったんだろう」

『なぜそう言い切れる?』

「オフィーリアを助けに行った時、俺とアルはガンマとベータと戦った。その時あいつは、ベータよりも先に俺に襲い掛かってきた。それは俺とベータを戦わせないためであって、ガンマは気絶したベータの前から一歩も動く事はなかった。それは全部ベータを守るためにした事だと俺は思っている」
 
だからきっと今回もガンマがベータをここまで連れて来たんだと思う。

そして中へ戻ったのは、アルファを助けるためなのかもしれない。

「うっ……」
 
するとベータは意識を取り戻したのか、ゆっくりと目を開くと俺の顔を見上げた。

「……クラウン……様?」

「えっ?」
 
彼女はまるで愛しい人を見るかのような表情で、じっと俺の顔を見つめてくると頬に手を伸ばしてきた。

しかし俺はその手を軽く跳ね除ける。

「おい……変な幻見てんじゃねぇよ。誰がクラウンだ!」

「……えっ」
 
俺の言葉に彼女は目を瞬かせると、俺がクラウンではなくブラッドだと気がつくと、怖い顔をして直ぐに俺から離れた。

そして腰から剣を抜くと切っ先を向けてくる。

「ブラッド!! なぜ貴様がここに居る!」
 
いや……せっかく治癒してやったのに開口一番にそれかよ。

「……はあ」
 
俺は鋭い目でこちらを睨みつけてくるベータに対して、深々と溜め息を吐いてからゆっくりと立ち上がった。