「これは……いったい」
 
クラウンの魔力を右目で感じ取った俺は、黒い煙を上げている研究施設らしき場所へと辿りついた。
 
しかし辿り着いた研究施設からは黒い煙や激しい炎が上がっていて、周りの草木や花々も枯れ果ててしまっていた。
 
俺は足元にあった一輪の花を摘んでみる。

しかしその拍子に、摘まれた花は直ぐに黒い砂と化し、跡形かも残すこと無く風に吹かれて飛んで行ってしまった。

「……っ」
 
その光景に俺は目を細めて、自分の右の手のひらを見下ろし研究施設の姿を見上げた。

『一体ここで何が起こったと言うのでしょうか?』

「……分からない。でもこの下からは確かにクラウンの魔力が感じ取れる。でも……」
 
クラウンの魔力は前よりも禍々しくなっている。

まさかシエルとか言う奴を使って、自分をこの世界のトトとして選ばせたのだろうか? 

でも認めさせるだけなら、研究施設がここまで壊れたりする事はないはずだ。
 
それにあいつが自分の魔力を俺に察知されるような真似だってしない。

全てにおいて用意周到なあいつが、こんなボロを出すなんてあり得ないんだ。
 
まさか俺をここへわざと誘き出すために……?

『っ! おい、ブラッド! あそこで誰か倒れてるぞ!』
 
頭の中でサファイアの声が聞こえて、俺は直ぐに視線を移動させた。

そしてそこに倒れていた人物の姿を見て目を見張る。

「べ、ベータ!?」
 
俺は直ぐに彼女の側によって体を抱き上げた。

「ベータ! おい! どうしたんだよ?! しっかりしろ!」
 
彼女の体を優しく揺らしながら、俺は上から下までベータが負っている傷を見下ろした。
 
体のあちこちに酷い切り傷があって出血が酷い。それに額からも血が出ている。
 
俺は右手をかざしてベータに治癒魔法を掛け始める。

『ブラッド……これは』 
 
アルの言葉に俺は頭を軽く左右に振った。

そして俺たちの周りに誰か居ないのかと、右目に魔力を注いで気配を探ってみる。
 
しかし俺たち以外の気配は一切感じ取れなかった。