ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「あぐっ!!」
 
体に激痛が走り一瞬意識を手放しかける。

「アルファ! ……アルファ!!」
 
セシルは涙を流しながら何度も僕の名前を呼んでいる。

そんな彼女に声を返して上げたいのに、さっきの衝撃のせいで左胸の傷口にヒビが入った。
 
そのせいで呼吸が上手く出来ない。

「はっ…はあっ………あ……。せ、……し……る」
 
早く立ち上がらないと、セシルが……セシルが!!

「アルファ。もう時間切れた」

「っ!」
 
その言葉に目を見張った時、彼女の体に魔法陣を刻んでいた黒い手たちが離れていく。

「さあ。始めようか。世界の救済を――」
 
クラウン様がセシルに手をかざした時、彼女の体に刻まれた魔法陣が赤く不気味に輝きを放った。

「――っ!」
 
ドクンと大きく彼女の体が脈打った時、彼女の頭上に星の涙の欠片が姿を現した。

「さあ、シエルよ。俺をこの世界のトトにしてくれたまえ」
 
その一言にセシルはぐったりを体を項垂らせた。

「せ、セシル……!!」
 
このままだとセシルがクラウン様をこの世界のトトに選んでしまう! 

何とか……何とかしないと!!

「うっ……けよ! 動けよ俺の体!!」
 
そう力強く叫んだ時、剣を握ったガンマがクラウン様の背後に立った。

その姿に気づいた僕は目を見張る。

「うおりゃあああ!!!」
 
そして剣の刀身を振り下ろした時、その刀身を黒焔の目が受け止めた。

「なっ!」
 
焦ったガンマは黒焔の目から離れようとする。

しかしそれをクラウン様は逃さなかった。

クラウン様は黒い手を鋭い槍へと変化させると、それを使ってガンマの左胸を辛いた。

「――っ! ガンマぁぁぁぁ!!!」
 
左胸を貫かれたガンマは、そのままぐったりと後ろへと倒れ込んだ。

「……ガンマ……。そんな……嘘だろ!」
 
ガンマの周りに血の海が広がっていく。

その光景を見る事しか出来ない僕は悔しくてたまらなかった。

そしてクラウン様へ対する激しい憎悪が生まれた。

「セシルと約束したのはアルファだけだからね。だからガンマ、君はもう用済みだ」
 
そうガンマに背中を向けながら淡々と言ってるクラウン様を、僕は今直ぐにでも殺してやりたかった。
 
あの時、一瞬でもクラウン様が前のクラウン様に戻ったのかもしれないと思ったのが馬鹿だった。

あんな事思わなければ……クラウン様を殺す事に躊躇いも生まれなかったのかもしれない。
 
全部……全部僕のせいで!

「さあ、シエル。俺を選びたまえ!!」
 
その声と共に意識を操られているセシルはゆっくりと口を開いた。