「君はもう良いよ。そこでこれから起きる事を見届けると良い」
わたくしはお腹を抱えてその場に蹲る。
『セイレーン!』
マールも人間の姿に戻ると、わたくしの両肩を支えてくれた。
クラウンはわたくしたちの横を通り過ぎると、セシルたちの方へと歩いて行く。
「マール……わたくしの事は良いですから。あなたはセシルたちを……」
「……無理だよ」
「マール……?」
その時わたくしは、マールの体も震えていた事に気がついた。
そんな姿を今まで一度も見た事がなかったわたくしは、驚いて軽く目を見張った。
「あの黒焔の目……。もうずっと前にトトがね、あれと戦った事があるんだ」
「……トト様がですか?」
「うん……。でもやっぱりトトでも、あいつには勝てなかった。今のセイレーンみたいに、魔力を吸収されちゃって、そのあと死にかけたんだよ」
「っ!」
その話を聞いたわたくしは、さらなる恐怖に襲われた。
トト様が……死にかけた?!
トト様でも勝てなかった存在とわたくしは戦ったと言うのですか!?
「セイレーンとアタイだったら……勝てると思った。今のアタイはあの時と違うから。……でも、セイレーンを失うと思ったら、やっぱり怖くなっちゃったよ!」
そう言ってマールは涙を流しながらわたくしの体を強く抱きしめる。
「セイレーンを失うくらいだったら! クラウンがトトになれば良い! だからアタイは……!」
「……マール」
これはもう何を言っても、彼女は言うことを聞いてくれそうにはありませんわね。
わたくしを失うくらいなら……ですか。
「ですが……マール。諦めるのはまだ早いですわ」
「えっ……?」
わたくしはマール涙を拭いながら言葉を続ける。
「わたくしたちが駄目でも、きっとブラッド様なら勝てるとわたくしはそう信じております」
「……ブラッドが?」
「ええ、だってあの方こそが」
この世界のトトなのですから。
✭ ✭ ✭
さっきの光景に僕の体には鳥肌が立っていた。
一体あれは何なんだ?!
あんな物……今まで一度も見たことがない!
あんな物にセシルが飲み込まれたら……!
「さあ、さっきの続きと行こうか」
「――っ!」
その声を聞いて僕は伏せていた顔をゆっくりと上げた。
「く、クラウン様……」
恐怖で震えている僕の姿を見たクラウン様は、嘲笑うような笑みを浮かべると口を開く。
「アルファ。まさか震えているのかい? 俺にあんな啖呵を切っておいて恐怖で震えているだなんて、今の君は凄く滑稽だよ」
「……そんなこと!」
そんなことあんたに言われなくたって分かっていることだった。
クラウン様にあんなこと言っておいて、今更恐怖で足が竦むだなんて!
「……はあ。セシルがね、君を殺さなかったら俺をトトとして選んでくれるんだ」
「は……?」
「だからさ――」
クラウン様は左手を軽く上げると、そのまま勢い良く僕の頬をぶっ叩いた。
「アルファ!!」
その勢いで僕の体は右に飛んで壁に叩きつけられた。
わたくしはお腹を抱えてその場に蹲る。
『セイレーン!』
マールも人間の姿に戻ると、わたくしの両肩を支えてくれた。
クラウンはわたくしたちの横を通り過ぎると、セシルたちの方へと歩いて行く。
「マール……わたくしの事は良いですから。あなたはセシルたちを……」
「……無理だよ」
「マール……?」
その時わたくしは、マールの体も震えていた事に気がついた。
そんな姿を今まで一度も見た事がなかったわたくしは、驚いて軽く目を見張った。
「あの黒焔の目……。もうずっと前にトトがね、あれと戦った事があるんだ」
「……トト様がですか?」
「うん……。でもやっぱりトトでも、あいつには勝てなかった。今のセイレーンみたいに、魔力を吸収されちゃって、そのあと死にかけたんだよ」
「っ!」
その話を聞いたわたくしは、さらなる恐怖に襲われた。
トト様が……死にかけた?!
トト様でも勝てなかった存在とわたくしは戦ったと言うのですか!?
「セイレーンとアタイだったら……勝てると思った。今のアタイはあの時と違うから。……でも、セイレーンを失うと思ったら、やっぱり怖くなっちゃったよ!」
そう言ってマールは涙を流しながらわたくしの体を強く抱きしめる。
「セイレーンを失うくらいだったら! クラウンがトトになれば良い! だからアタイは……!」
「……マール」
これはもう何を言っても、彼女は言うことを聞いてくれそうにはありませんわね。
わたくしを失うくらいなら……ですか。
「ですが……マール。諦めるのはまだ早いですわ」
「えっ……?」
わたくしはマール涙を拭いながら言葉を続ける。
「わたくしたちが駄目でも、きっとブラッド様なら勝てるとわたくしはそう信じております」
「……ブラッドが?」
「ええ、だってあの方こそが」
この世界のトトなのですから。
✭ ✭ ✭
さっきの光景に僕の体には鳥肌が立っていた。
一体あれは何なんだ?!
あんな物……今まで一度も見たことがない!
あんな物にセシルが飲み込まれたら……!
「さあ、さっきの続きと行こうか」
「――っ!」
その声を聞いて僕は伏せていた顔をゆっくりと上げた。
「く、クラウン様……」
恐怖で震えている僕の姿を見たクラウン様は、嘲笑うような笑みを浮かべると口を開く。
「アルファ。まさか震えているのかい? 俺にあんな啖呵を切っておいて恐怖で震えているだなんて、今の君は凄く滑稽だよ」
「……そんなこと!」
そんなことあんたに言われなくたって分かっていることだった。
クラウン様にあんなこと言っておいて、今更恐怖で足が竦むだなんて!
「……はあ。セシルがね、君を殺さなかったら俺をトトとして選んでくれるんだ」
「は……?」
「だからさ――」
クラウン様は左手を軽く上げると、そのまま勢い良く僕の頬をぶっ叩いた。
「アルファ!!」
その勢いで僕の体は右に飛んで壁に叩きつけられた。



