「ですが、このわたくしには一切関係のないことですわ」

「……えっ」
 
セイレーンのその言葉に私は目を丸くした。

関係ないって……どういうこと? 

「それはエアと守護者たちだけが交わした約束事です。ですからマールの主であるわたくしには関係のないことですわ」

「で、でも! 魔剣を手にしているなら、約束を果たさせるために行動するのは当たり前なことで――」

「そんなこと、いったい誰が申したのですか?」
 
セイレーンは真っ直ぐ私を見つめると、づかづかと側に歩み寄って来て言葉を続けた。

「あなたは魔剣を持った者こそが、その約束を果たさせる義務があるように思っているのでしょうね。しかしそんなことをしたところで、いったい何になると言うのです?」

「そ、れは」
 
ギラリと光る真っ青な瞳に見つめられる中、私の体は震え始めていた。

そして――

「あなたはその目的に人生を囚われていませんこと?」

「っ!」
 
彼女の言葉に目を丸くしたと同時に心臓が大きく跳ねた。

「今ここであなた方にマールを託したとしても、行方が分かっていない魔剣は五本あるのです。あなたの寿命が尽きるまでに、その五本を見つけられると申す事が出来るのですか?」

「……」
 
セイレーンの……言う通りだ。
 
寿命が尽きるまでの残り二年で、魔剣五本を見つけられるとは到底思えない。

二年経つ前に死ぬ可能性だってあるんだ。

「そんなお先真っ暗なあなた方に、このマールを託す訳には参りませんわね。ですからわたくしは今日そのことをお伝えするために、ここへ来たのですわ」
 
顔を伏せて何も言えずにいる私に、セイレーンは呆れたのか深く息を吐くと最後に言う。

「あなた方に託しても良いと思えた時に、またここへいらして下さいな。それまではどうぞ、残りの五本の行方でも追って下さいませ」
 
セイレーンは言い捨てるように言うと、湖のある方へと向かって歩き出した。

そんな彼女を呼び止める言葉が出て来なかった私は、ただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。