ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「……そうですわね」
 
しかし……本当にこれで終わりなのでしょうか? 

黒焔の太陽の一部だと聞いて警戒を強くしていたのですが、これでは呆気なすぎますわ。
 
本当にこれは……黒焔の目だったのでしょうか?
 
そんな事を考えながら、わたくしは行き先をセシルたちへと変え、横目で黒焔の目を流していた時、嫌な気配を肌で感じ取った。

「――っ!」
 
気配を感じ取った方へ慌てて振り返った時、わたくしの直ぐ背後に小さな黒い塊が浮いていた。

「……えっ」
 
それはゆっくりと目を見開くと、ギョロッと目玉を動かした。

「キャハハハハハハハ」
 
奇怪な笑い声が響き渡った時、わたくしの体を何かがぐさりと突き刺さった。

「……か……はっ」
 
それは全て一瞬の出来事だった。

体の中に何かが入ってくる嫌な感覚がして、それはわたくしの雫を発見すると力強く握りしめた。

「あああああ!!!」

『っ?! セイレーン!?』
 
わたくしの叫び声に気がついたマールは元の人間へと姿を戻すと、目の前に浮かんでいる黒い塊を目にして顔を青ざめた。

「あ、あんた、は……! 黒焔の目?!」
 
その名にわたくしは目を見張った。
 
いったいどういうことですの?! だって黒焔の目はたった今!
 
マールはわたくしの体の中に入り込んでいる黒い手の存在に気がつくと、それを断ち切ろうとして腰にある短剣を抜くと振り下ろす。
 
しかし小さな黒焔の目は直ぐに手を引っ込めるとその場から退散する。

「まっ! ……セイレーン! 大丈夫?!」

「あ……っ」
 
体から力が抜けたわたくしはその場で両膝を付いて倒れ込んだ。

「せ、セイレーン! まさか魔力を座れたの?!」

「はあ…………。ええ……少しばかり」

「少しって……! 全然少しじゃないよ! あいつはセイレーンの魔力をごっそり持っていたんだよ! もし気づくのが遅れてたらセイレーンが!」
 
マールは目尻に涙を浮かべるとわたくしに体を抱き起こす。

「……ごめんなさい、マール。あなたが忠告してくれた……にも関わらず、あいつに魔力を……」
 
ほんの数秒間だったとは言え、あれはわたくしの雫の在り処を探り当てると、物凄く力で雫を掴んできた。

そのせいで体に嫌な感覚が走って、意識を手放しかけてしまった。
 
このわたくしが……本気で死を恐怖してしまった。
 
あの存在は私が思っていた物よりも、遥かに危険で確実にこの世界から消滅させなければらない存在。

今ここで殺しておかなければ必ず今後の脅威になる。

「おや、どうしたんですかセイレーン? 凄く顔色が悪いようだけど?」