ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「とっとと、終わりにしようか!!」
 
クラウンはクリエイトの刀身を頭上へと伸ばすと、真っ黒な魔法陣を出現させる。

出現した黒い魔法陣はバチバチと紫色の火花を走らせると、大きな黒い化物を召喚させた。
 
その光景にわたくしは目を見張った。

「……これは!」
 
クラウンによって召喚された化物は閉じていた大きな瞼を開くと、ギョロギョロ大きな瞳をあちこちに向けた。

『あ、あれは! どうしてあの男があんな物を召喚出来るのよ?!』
 
頭の中でマールの焦った声が聞こえて、わたくしは彼女に問いかける。

「マール! あれは一体何ですの?!」

『あれは…………黒焔の太陽の目――黒焔の目(シュヴァルツアイ)だよ』

「っ!」
 
黒焔の太陽の目玉! 

……黒焔の目! 

だってその存在はあの世界で、トト様がお一人で抑え込んでいるはず。

なのにどうしてあの男が、あんな物を召喚出来たと言うの?!

「さあ黒焔の目よ! 食事の時間だ」
 
その言葉に黒焔の目は目玉をギョロギョロと動かすと、アルファ、ガンマ、そしてわたくしの姿を捉えた後、セシルへと狙いを定めた。

『っ! まずいよセイレーン! あいつセシルちゃんの雫を狙ってる!』

「どうして分かるんですの?」

『黒焔の目は魔力を多く持った人間を食らう事を望むんだよ。だから今この中で一番高い魔力を持っているのはセシルちゃんだから、あの黒焔の目は真っ先にセシルちゃんを食べようとするんだよ!』
 
マールの話にわたくしは頬に汗を流した。
 
高い魔力を持った人間を食らう事を望む……。

では本体である黒焔の太陽は、星の涙の魔力を心から欲していた事になる。

だからトトがあの存在をこちらへ来させないためにお一人で……。

『それにセイレーン! あの黒焔から出てる黒い手には当たらないでね』

「どうしてですの?」

『さっきあれは高い魔力を持った人を食らうって説明したよね? つまりあいつは常に魔力に飢えているんだよ。だからあの手を使って、触れた物の全てから魔力を吸い尽くしちゃうんだよ。だから私たちが魔法を使う時に力を貸してくれる精霊の存在は、あいつにとっては大好物なんだ』

「精霊が……大好物」
 
と言うことは、あの手に触れてしまったらわたくしの魔力も全て吸収されてしまうのですわね。

特に海の精霊たちから多くの力を借りているわたくしは、あいつにとっては大好物の存在……。

「これは……慎重に行かなければなりませんわね」

『気をつけてね、セイレーン。あいつをこの世界から追い出すには、クラウンを何とかしないと』

「分かりましたわ」
 
黒焔の目は無数の黒い手を出現させると、真っ直ぐセシルへと手を伸ばしていく。

「ひっ!」