ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

クラウンも魔剣クリエイトに魔力を注ぐと刀身を横に振るい、黒い霧を生み出していく。

そしてそれは魔物へと姿を変化させると、わたくしが作った海の生物たちへと向かって行く。

「あら、わたくしと同じ事をするのですわね。でしたらこれはどうかしら?」
 
わたくしは軽く息を吸って唇を大きく開ける。胸の上に手を置き目を閉じてからわたくしは歌い始めた。

「――♪」
 
周りにわたくしの歌声が響き渡ると、それはこの場に居る者全員に影響を与えた。
 
まずわたくしが作った海の生物たちの能力が上がると、クラウンが作り出した魔物たちを次々と消し去って行く。

そして次に大怪我を負っているアルファとガンマの傷の止血。

しかし傷自体を治す事は出来ませんが、体力を戻してあげる事は可能です。

「この力……これがセイレーンだけが持つと言う『海の歌』か。まったく厄介な物だな」
 
クラウンは右目に魔力を注ぎ、今度は歌を歌っているわたくしとの距離を縮める。

そして魔剣クリエイトの刀身を振り上げると、わたくしの頭上目掛けて思い切り振り下ろす。

「おっと!!」
 
すると元の姿へと戻ったマールが、真剣白刃取りでクリエイトの刀身を両手で挟み込んだ。

「っ?!」

「せっかくセイレーンがみんなに歌を披露してるんだから。邪魔しないでくれるかな?」
 
マールはそう言ってクリエイトの刀身を掴んだまま、柔らかい体を活かしてクリエイトのお腹に一発蹴りを打ち込む。

「うぐっ!」
 
マールの蹴りが思ったよりも効いたのか、クラウンは痛そうに表情を歪めると彼女から距離を取って離れる。
 
マールもまたわたくしの側に戻るとクラウンへと拳を構える。

「さあさあいつでも掛かって来て良いんだからね。こう見えてアタイって、武術とか得意だったりするんだから」
 
彼女の見た目は一見、無邪気て愛くるしい十五歳の少女に見えるかもしれない。

しかし決してその見た目に惑わされては行けません。

ある意味マールはわたくしよりも遥かにお強く、全ての動物と話す事ができ仲良くなる事が出来るのですから。

「マール。あまり無茶だけはしないで下さいね。あなたが傷つくところは見たくありませんから」

「うん!」
 
マールはわたくしに大きく頷いて見せると、視線の先をクラウンへと戻す。

そんなマールの姿をじっと観察していたクラウンもまた、彼女へとクリエイトを構える。
 
するとクラウンの手の中からクリエイトはすり抜け出ると、彼もまた元の人間の姿へと戻った。