ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

そんなセシルの姿を横目で冷たく見ていたクラウン様は、軽く息を吐くと彼女を落ち着かせようと口を開く。

「シエル。少し落ち着いたらどうかな? 俺は君をそんな風に育ては覚えはないんだけど?」

「な、何を言って……! そもそも私はあなたの娘なんかじゃない! 私のお父様とお母様はあの人たちだけです! あなたが殺した……」

「それは仕方ないよ。話を聞かなかったのは、クロード兄さんだったからね」

「……えっ」
 
クラウン様はセシルの前に立つと言葉を続ける。

「あの日、俺はクロード兄さんにブラッド君の体の事を伝えに行ったんだよ。残念だけどお手上げだ。もう彼は死を待つしかないよって。そしたらいきなりクロード兄さん怒って、俺の胸倉を掴んだんだよ。そうしてこう言ったんだ。……お前誰だ?! って」
 
その話に僕は意識を何とか保ちながら聞いていた。

そして内心で驚いていた。
 
まさかクロードさんは気づいていたのか? 

クラウン様が自分の知っているクラウン様じゃないって事が。

「どうやらクロード兄さんは、最初から俺の事を疑っていたみたいだったよ。だから俺はもう良いやって思って、君たちを殺そうとした」

「……そんな……理由だけで……お父様と……お母様を!」

「そう。最初からどうでも良かったんだよ。ブラッド君の体を見てあげたのだって、ただの興味があったからだったしね。でもそのおかげで良い実験材料になってくれたし、彼の存在にも気づく事が出来た。だから彼を生み育ててくれた、クロード兄さんとフィエリアには感謝しているんだよ。もちろん君にもね」
 
クラウン様の話を聞いていく中で、彼女は何度も自分の耳を塞ごうとしていた。

しかし黒い手に体を拘束されてしまっているせいで、手や腕を自由に動かせないでいた。
 
そして彼女は涙を流しながら絶望に満ちた顔を浮かべた。

その顔を見た時、僕は拳に弱々しく力を込めた。

「……せ、……し、る」
 
こんなところで寝ている場合じゃないだろ! 

今立ち上がらないでどうする!
 
俺は自分に活を入れながら、何とか体に力を込めて立ち上がろうとする。

しかし僕の体はとっくに限界を超えている。

これ以上無理をすれば、僕の体は確実に保たない。

おそらく彼女を逃がす前に僕は死ぬ。
 
それにお腹に空いた風穴から血がたくさん流れ出ている。

最悪、自分の体より血が足りなくて死ぬかもしれない。

「……ははっ。そん……な……の……どっ……でも……いい……」
 
そんなのどっちでも良い。

彼女の為に死ねるなら本望だ!

「それにシエル。君はさっき言ったよね? アルファを殺さなかったら、エアでも何でもなってくれるって」

「っ!」
 
その言葉に彼女は体を震わせた。