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ブラッドさんの力は僕が想像してた以上に遥かに強くて、あの時ベータに上手く助け出されていなかったら、今頃この場に立っている事はなかったと思う。
 
ほんと……今になって思えば、僕も言い方が悪かったところもあるけどあれは容赦なさすぎだろ。

初めて見た時はあんなに小さくて大人しそうな子に見えたけど、人ってやっぱり大きくなるにつれて変わる物なんだな。

「アルファ。これ以上はあまり体を壊すなよ」
 
ベータからの治療を受けながら、僕は嫌と思うほど散々その言葉を浴びせられていた。

「もう分かっていますよ! そう何度も言わなくても、もう無茶なんてしませんよ!」 

「いいや、お前は全然分かっていない。いくら私たちの体がクラウン様によって作り変えられていると言っても、体が頑丈に作られているってわけではないんだ。歳は取らなくなったが、数ヶ月なら食事や水を摂取しなくても行けていけるその程度の物だ。しかしこうも何度も体が酷く傷つけられたり壊されたりしたら、体の再生速度はどんどん落ちていく。最悪、傷によって殺されるんだぞ」

「……」
 
僕は窓の外を眺めながらその話を半分聞き流していた。

そしてあの時のブラッドさんの姿を思い出していた。

「自分から彼女の攻撃を受けるなんて……馬鹿ですよ。君は」
 
最悪死んでいたかもしれないと言うのに、あのとき彼は迷う事なくオフィーリアさんの剣撃を受けた。

それはオフィーリアさんに自分の事を信じて欲しかったからだ。
 
でもその姿を見たとき僕は馬鹿馬鹿しいと思った。
 
人に信じてもらうために自分が傷つくなんてどうかしている。

信じてもらえなかったら辛い思いをするのは自分だけだって言うのに。

「おい! 聞いているのかアルファ!」

「あ〜! はいはい、聞いてますよ!」

「はあ……まったく」
 
ベータは深々と溜め息を吐くと、包帯を丁寧に巻き終えると立ち上がった。

「もう一度言っとくが、それ以上体を壊すなよ。特に左胸の辺りは注意しろ」
 
【左胸】とベータに言われ僕は、とっさに自分の左胸の上に手を置いた。

そしてそこだけ厳重に治癒魔法が施されていた事に気がついた。
 
おそらく僕が意識を失っている最中にベータが治療してくれたんだと思うけど、まさかこの辺りの怪我が一番酷かったのだろうか?

「ほんと……怖いな。ブラッドさんは」
 
僕のこと殺す気満々じゃないですか。