「なっ!」
 
【しまった!】と思った時、僕たちの姿は黒い手たちの中へと消えた。

「アルファ! セシル!」
 
ガンマの呼ぶ声が聞こえると思った時、黒い手たちはセシルだけを回収すると、僕の体はそのまま外へと放り出した。
 
そんな僕の体をガンマが何とかキャッチしてくれた。

「おい! しっかりしろ! アルファよぉ!!」

「うっ……セシル……は?」
 
僕の言葉にガンマはクラウン様へと視線を送る。

そんなガンマに釣られて僕もクラウン様へ目を向けると、飛び込んできた光景に目を見張った。

「せ、セシル!!!」
 
セシルの体は黒い手たちによって拘束されていた。

しかし黒い手たちは人差し指をたてると、彼女の体に魔法陣を刻み込み始めていた。

その光景を見た僕の中で怒りの感情が膨れ上がった。

「やめろ!!! セシルに何をするつもりなんだ!!!」
 
僕の叫び声にセシルの隣に居るクラウン様はニヤリと笑った。

「服従させるのさ」

「なっ!」
 
服従させる……だって?!

「もう彼女の意思とかそんなもの関係ないんだよ。別に彼女がエアになる事を望んでいなくても、この体さえあれば十分だからね」
 
クラウン様は気を失っているセシルを見上げると、彼女の体を上から下まで嫌らしく見下ろす。

「この肉体もそうだけどね、本当にエアの末裔たちは良い実験材料だったよ。まさかここまでエアに似た肉体を作り上げる事が出来たんだからさ」
 
その言葉に僕はギロリとクラウン様を睨み付けた。
 
やっぱりこの人にとって僕たちの存在や、エアの末裔の人たちも、ブラッドさんやオフィーリアさん、そしてセシルは都合の良い実験材料だったんだ。
 
僕は強く歯を噛み締めながら両拳に力を込めた。

今頃になって後悔したところでもう何もかもが襲い。

あの時になんて思ったところで、今目の前で起こっている現状から目を背けるだけじゃないか。

「ガンマ……下ろしてくれ」

「……アルファよぉ。お前は一体どうすんだぁ?」
 
ガンマにゆっくりと下ろされた僕は、顔を伏せながら言う。

「そんなの……決まっているじゃないか。僕は……今からクラウン様を……殺すよ」
 
もうあの人を止める方法はこれしかない。

体だってもう立っているのがやっとで、とっくに限界が来ているんだ。

そんな体でセシルを連れて逃げる事はもう不可能に近い。

本当なら彼女に自分で翼を使って逃げてほしいって言いたいところだけど、きっと彼女はもう二度と翼を使って飛ぶ事はないと思う。

それにこの命はあの時からセシルの為に使うと決めていたんだ。
 
だから――