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「……黒い者?」
 
その一言に僕は首を傾げた。

しかし直ぐに頭を左右に振って、僕はセシルへと目を移動させる。

今はクラウン様の事よりもセシルの方が優先だ。

一体あの人は彼女に何を……!?
 
僕は彼女の翼へと視線を移動させる。

そして彼女の翼を目にした時、僕は自分の目を疑った。
 
彼女の背中に生えている真っ白な翼は、クラウン様に傷つけられた事によって、翼の一部分を黒く染め上がらせていた。

そして黒く染まった部分の周りの羽たちにはヒビ割れが生じていて、触れたら今にでも崩れ落ちてしまいそうにも見えた。
 
そんな光景に僕は目を細める。

彼女の翼には触れた事がなかったけど、動物の鳥や鳥人族(フォーゲル)たちが持っている翼と同じ物だろうと思っていた。
 
しかし彼女の翼はふわふわしていると言うよりも、何かの結晶たちが集まっているように見えた。

「翼が……翼じゃない?」
 
一体どういうことなんだ?! 

これは僕が知っている翼とは何かが違う! 

……いや、これを翼と呼んでも良いのだろうか!?

「あ、アルファ……」

「っ! セシル! 大丈夫ですか?!」
 
彼女はとても辛そうに表情を歪めながら、ゆっくりと僕に手を伸ばしてきた。

その手を取った僕はそれを自分の頬へと擦り寄せた。

「あ、ある……ふぁ……。体中が……凄く痛いの……」

「……っ」
 
僕はもう一度黒くなっている翼を見つめてから、彼女を安心させるために髪を撫でる。

「大丈夫ですよ……大丈夫ですから」
 
そう彼女に声を掛けてから僕は、ギロリとクラウン様を睨みつけた。

そんな僕の姿にクラウン様はニヤリと笑った。

「どうした、アルファ? 俺に何か聞きたい事でもあるみたいな顔だね」

「……じゃあ僕が聞いたら、あなたは素直に教えてくれるんですか? この翼みたいな物が一体何なのかを」
 
僕はそう言ってクラウン様から離れているガンマへと視線を送った。

すると僕の視線に気がついたガンマは僕たちのところへ戻って来ようとする。
 
しかしそれをクラウン様は許さないのか、背後から出している黒い手たちを使って、ガンマの行手を封じた。

「ちぃ……!」

「ガンマ、動かないでくれるかな? 今から大事な話をするところだから」
 
クラウン様はとても冷たい目を浮かべるとそう言い放った。

その言葉にガンマはクラウン様の様子を伺いながらも従わざるを得ず、渋々数歩後ろへと下がった。

そんなガンマの姿を見届けたクラウン様も、数歩前に出ると僕の腕の中に居るセシルの翼へと視線を移動させた。