「ふっ……いよいよ始まりましたか」
 
クラウンの最後の研究施設が見えるところから少し離れた場所で、私は妹のウリエルと共に様子を伺っていた。
 
しかしここに居てもあそこから発せられる禍々しい魔力は、直接肌で感じるとピリピリとするものですね。

これは思った以上に、彼の中で【あれ】は育っていたって事になるのでしょうね。

「兄上。僕たちはどうするんですか?」

「……う〜ん、そうだね。とりあえずいつも通り、ここで見学させてもらうよ」
 
そう言って私は閉じていた目を薄っすらと開けて、研究所の姿を瞳に映した。

「それにどうやら彼女は私が送った物は使わず、自分の目で確かめてから殺すか生かすかどうか判断するみたいですね」
 
私の言葉にウリエルは軽く目を細める。

そして苛ついたように表情を歪めると視線を地面に投げた。
 
なるべく早く彼女の事は始末したかったのですが、どうやら彼女はこの世界のエアになることを拒んだようですし、死ぬのも時間の問題という事にもなるから、今更焦ったところで特に変わりはしないか。

「さて……彼は間に合うのでしょうかね?」
 
あの禍々しい魔力の反応を彼が見逃すはずはないでしょう。

しかし間に合うかどうは彼次第になる。

「兄上。まさかあのブラッドと言う男に期待でもしているのですか?」

「……ふっ。そんなわけないじゃないか」
 
私は薄っすら開けていた目を閉じてから、ウリエルの方へ振り返ってそう言う。

「お前も知っているだろ? 私は誰も信じないってことを。あ、もちろん僕の大事なウルは別ですよ」

「わ、分かっております」
 
ウリエルは頬を少し赤く染めると私から目を逸らす。

ふっ……まったく可愛い妹ですね。

「しかし……やばそうだと思ったときは、お前にも動いてもらいますからね」

「はい、分かっております」
 
そう言って彼女は腰になる剣の柄に手を置いた。

その姿を横目で見た私は天を仰いだ。

「さあ……眠るのはどっちなのでしょうね」