「ですから、マール。くれぐれも気を抜かないで下さいね。わたくしはこんなところで死ぬつもりなんてないのですから」

『うん! そうだよね! それでこそセイレーンだよ!』
 
マールの言葉にわたくしは微笑し、そして直ぐに真っ直ぐ前を見据えた。

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「うっ……」
 
体が重い……。

一体何が起こったの?
 
私は閉じていた目をゆっくりと開ける。

そしてゆっくりと左右に目を配った時、誰かが私を覆いかぶさるように抱き抱えてくれている事に気がついた。

「……えっ」
 
視界がはっきりして来た時、私の目にアルファの顔が飛び込んできた。

「あ、アルファ……!」
 
アルファは頭から血を流していて気絶しているようだった。

私はアルファの腕の中からすり抜け出て、慌てて彼の体を揺らした。

「アルファ!! しっかりしてアルファ!!」
 
何で……どうして私なんかを?! 

しかし何度彼の名前を呼んでも、アルファは目を覚ましてくれない。

それどころか彼の全身に目を配った時に私は目を見張った。
 
私を守った時に負った物なのだろうか、アルファの背中は真っ赤に染まっていて、血がべっとりと服に染み込んでいた。

「……そ、んな……! いや、……嫌だよ! アルファ!!!」
 
私は彼の体を抱きしめながら、背中にある翼を使って一刻も早くこの場所から出ようと思った。

「死んじゃ嫌だよ! ねえ、アルファ!!」
 
もう一度彼の名前を呼んでも、彼は応えてはくれない。その姿に私は涙が溢れた。

「早く……早くここから出なくちゃ!」
 
そう言ってその場からアルファを抱えて飛ぼうとした時、私の左足首に何かが巻き付くと、それは思い切り私たちを下へと引っ張った。

「きゃっ?!」
 
その拍子に私はアルファの体を手放してしまった。

「あ、アルファ!」
 
アルファはそのまま地面に落下してしまい、私も足首を何かによって引っ張られているせいで、彼の元へ飛んで行く事が出来なかった。

「くっ……! アルファ……!」
 
必死に彼に手を伸ばした時、背後に人の気配を感じた。

「まったく、あまり手こずらせないでくれるかな?」
「……っ」

その言葉が聞こえた瞬間、私の体に震えが走った。

そして恐る恐る後ろを振り向くと、そこには冷たい目で私を見下ろしてくるクラウンの姿があった。
 
すると彼の背後から黒い手みたいな物が生えていて、その内の一つが私の足首を掴んでいた事に気がついた。