「なっ……!」

その姿に僕も驚いて目を見張った。

あのベータの速さに反応して、剣を振り下ろさせるよりも先に刀身を掴んだ?! 

僕でも未だにベータのスピードは目で追うのでやっとだって言うのに。

ベータは何とかして引っ張り戻そうとしているけど、ガンマは相当力を入れながら刀身を掴んでいるのか、一ミリたりとも動いているようには見えなかった。

「は、離せ! ガンマ!! このままでは――」

「もう良いよ。ベータ」

「――っ!」
 
クラウン様のとても冷めきった声音が、この場に居た全員の動きをピタリと止まらせた。

そして一斉にクラウン様へと視線を移動させた時、クラウン様は背後に真っ黒なオーラを出しながらこちらをギロリと睨みつけて来ていた。
 
その姿に僕たちは目を見張った。
 
体全身に鳥肌が立って、嫌な汗がじわりと滲み出る。

僕は自分の後ろにガタガタと震えているセシルを安心させるために、彼女の体を引き寄せて優しく抱きしめた。

「あ、アルファ……?」

「大丈夫。……大丈夫ですから」
 
クラウン様は真っ黒なオーラを全身にまといながら、ゆっくりとこちらへと歩いて来る。

「もうそろそろ話も終いだ。だから……もう良いんだよ、ベータ」
 
そう言ってクラウン様は僕たち四人に向かって手をかざした。

「っ!」

「ちっ!」

「……クラウン様?」
 
右顔半分に付いていた仮面を取り外したクラウン様は、ゆっくりと右目を見開くと、瞳の中に存在している魔法陣を不気味に輝かせた。

「まったく……どいつもこいつも、俺の邪魔ばかりしやがる。だから最初から殺しておけば良かったんだ。最初からこうなるって分かっていたんだから」
 
そう言ってクラウン様はニヤリと笑った時、自分の背後に無数の闇の玉(ダークボール)を作り出した。

しかしクラウン様の作りだした闇の玉は、バチバチを赤紫色の電流を走らせていた。

「おい……あの闇の玉。ありゃぁまともに当たったら無事じゃすまねぇぞ」
 
ガンマは小声で僕たちにそう言う。

その言葉に軽く頷いた僕はセシルを抱きしめる腕を解いて、彼女の手を再び握った。

「シエル」

「っ!」
 
クラウン様は僕の後ろに居るセシルに声をかけると、彼女にゆっくりと右手を差し出した。

「もし、君が大人しく来てくれると言うのなら、アルファたちは見逃してあげたっていい」

「そ、それは……」
 
その誘いに彼女の代わりに僕が口を開いた。

「彼女を差し出す代わりに自分たちだけ生き残るだなんて、そんな手段を僕たちが取ると思いますか? 当然、そんなの却下ですよ!」

「あ、アルファ……」