「俺たちは平気だ。それよりも今は……」
 
お母様と合流した私たちは、何とか屋敷から出ようと出口を探した。

しかしどこもかしこも火の海になっていて、屋敷の外へ出ることは殆ど不可能に近かった。

「お母様……お父様……」
 
するとお父様は私の目線に合わせてしゃがみ込むと、真剣は表情で話し始める。

「良いか、セシル。俺とフィエリアは今からお前だけでも外に逃がす」

「だ、だからそれは……!」

「良いから、聞け! セシル!」

「っ!」
 
お父様は力強く私の両肩に手を置くと、じっと私の顔を見てくる。

そんなお父様の姿から目を逸らす事が出来なかった私は、お父様の言葉を待った。

「セシル。ここを出たらお前はまず、レオンハルト君たちの家に走るんだ」

「れ、レオンハルトお兄様の家に?」

「ああ、そうだ。そうしたらお前は、ブラッドの事を追いかけろ」

「……お兄様を?」
 
でもお兄様は……。

「あ、あの……クラウンおじさんは駄目なんですか?」
 
私の言葉にお父様とお母様は何故か辛い顔を浮かべた。

そして少し間をあけてから。

「クラウンは……駄目だ」
 
お父様はキッパリと私にそう告げた。

どうして? 

だってクラウンおじさんはお父様の弟で、アルファお兄様のお父さんで……。

「良いか! 絶対にクラウンには頼るな! 今のあいつは……駄目なんだ!」
 
そう言ってお父様は直ぐ近くの窓ガラスに手をかざすと、魔法を使って破壊した。

そしてそのまま私の手首を掴んだ。

「セシル。お前が俺たちの元に生まれてきてくれてよかったよ」

「お、お父様……?!」

「セシル。あなたやブラッドがこれからどんな大人に成長していくのか、それを側で見る事はもう出来ないけど、私とクロードはいつまでもあなた達の側に居るから、それをどうか忘れないで」
 
お母様の言葉に頷いたお父様は、私の体を水の輪(ウォーターリング)で包み込むと、そのまま力強く私の体を投げ飛ばした。

「――っ!」
 
私の体が窓の外へと投げ出された瞬間、屋敷はそのまま大きな爆発を起こした。

「お父様!!! お母様!!!」
 
二人の姿が炎の中へ消えたのを見たのが最後、私はそのまま大きなショックを受けて意識を手放してしまった。
 
そのあと自分がどうなったのか記憶がない。

意識を取り戻して目を覚ました時、私は冷たい寝台に寝かされていて、全ての記憶を失っていたのだから。

「…………思い出した」
 
今まで何かによって封じ込められていた記憶を全て思い出した時、頬に涙がボロボロと流れた。

「お父様……お母様……! ……お兄様!」