ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「本当にあの人の言いなりになって良いの?」

「そ、それは……どういう意味?」
 
目をそっと開いた時、私は真っ暗な空間の中を漂っていた。

「ここ……」
 
さっきまで実験室の中に居たはずなのに、いつの間に移動したの? 

それにみんなの姿も見当たらない。

「ここはあなたの世界――」

「……私の?」
 
声のする方へ振り返ると、そこには幼い姿をした自分が立っていた。

その姿に少しほっとした私は、翼を軽くはためかせて幼い自分の元へと寄る。
 
そして幼い自分の側に寄った時、私は背中にあるはずの翼がない事に気がついた。

「ねえ、翼はどうしたの?」

「翼? そんなの最初から付いていないよ?」

「えっ……?」
 
その言葉を聞いたとき心臓が大きく跳ね上がったと同時に、頭にズキリと頭痛が走った。

「翼が……ない? 最初から?」
 
じゃあ私もアルファと同じ普通の人間だったの? 

じゃあどうして今の私には翼があるの? 

もしかして……私はパパの娘じゃないの?

「お前だけでも良いから逃げろ!」
 
その時とても力強い声が後ろから聞こえた。

何かが燃えているような音も耳に聞こえて、私は瞳を激しく揺らしながら恐る恐る後ろを振り返った。

その瞬間私の体は炎に包まれて、あの時の記憶が一気に流れ込んできた。

✩ ✩ ✩

「嫌です! お父様もお母様も一緒に!」

「駄目だ! 俺たちは行けない!」
 
私は目に涙を浮かべながら、燃え盛る炎から私だけを逃がそうとしてくれている両親を見上げる。

「セシル……。良い子だから、あなただけでもどうか生きて」

「……嫌です」
 
私は断固として頭を縦に振ろうとはしなかった。

そんな私にお父様とお母様は苦笑してお互いに顔を見合わせた。
 
どうして……突然、屋敷が燃え始めたのかは分からなかった。

私はいつも通り自室で寝ていて、何か焦げた臭いが鼻を刺激した時に目が覚めて、目をこすりながら部屋を出た。
 
そして部屋を出た瞬間、熱い熱風が私の髪を舞い上がらせた。

「……えっ……」
 
廊下が……燃えてる? 

そう思った時、直ぐに私の体はお父様によって抱き上げられた。

「お、お父様……?」

「大丈夫か、セシル?! どこか怪我とかしてないか?」

「わ、私は大丈夫です。お父様とお母様こそ大丈夫ですか?」
 
その言葉にお父様は私を安心させるために髪を優しく撫でてくれた。