ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「さあ、始めよう」
 
そうパパが言った時、足元の魔法陣が赤く不気味に輝き始め、私の頭上に星の涙の欠片が姿を現した。

「……あれって」

オフィーリアの胸元にあった星の涙だよね? 

でもどうしてこんなところにあるの? 

だって星の涙はオフィーリアが持っていたはずだったのに。
 
星の涙の欠片は魔法陣の輝きに反応すると、青白い輝きを真っ赤な血色に染め上げていく。

その光景を見た私は目を丸くした。

「星の涙の輝きが……」
 
徐々に赤く染まっていく星の涙を見上げた時、ズキッと頭に頭痛が走った。

そしてふと思った。

「どうしてオフィーリアは星の涙を頑なにパパに渡さなかったの?」
 
どうしてブラッドは、パパからオフィーリアを奪い返そうとしたの? 

どうしてアルファはずっと辛い顔を浮かべているの?
 
様々な考えが頭の中を巡って行った時、私は自分の背後に嫌な存在の気配がある事を感じ取った。

「っ!」
 
それが一体どんな物なのか確かめたいのに、怖くて振り返る事が出来ない。

この震えはいったいなに? 今後ろに居るのは誰なの?
 
星の涙が完全に真っ赤に染まり上がった時、真っ赤な光が欠片から放出された。

その輝きは真っ直ぐ私に向かって飛んで来る。

「――っ!」
 
真っ赤な光が私に直撃した時、視界が真っ赤に染まった。

「シエル様!!」
 
後ろの方でアルファの呼び声が聞こえる。

その声に【大丈夫だよ!】って言ってあげたいのに、意識がどんどん遠のいて行く。
 
まるで……誰かの意識と入れ替わっていくような……。
 
その瞬間、私はアルファのあの言葉を思い出した。

「だから、シエル。もし君が嫌だと思ったら、迷わず僕の名前を呼んでほしい」
 
もしかして……アルファが言っていた事ってこのことなの? 

これが……私が私じゃなくなるって意味なの?

「本当にこのままで良いの?」

「……っ!」
 
怖くて目を閉じていた時、頭の中に少女の声が響いた。