「今のところ……嫌な魔力は感じないか」
 
右目に少し魔力を注いでこの街から嫌な魔力がないかを探ってみたが、これと言った嫌な魔力は今のところ感じられなかった。

「あいつらがそう簡単に尻尾なんて掴ませてくれないよな……。とりあえず聞き込みでもしていくか」
 
そう呟きながら胸ポケットから手帳を取り出しかけた時、フードを被ったとある女性とすれ違った。
 
その姿を俺は横目で見ながら流した。
 
フードを被っているせいで素顔は見えなかったけど、ただ一瞬だけ太陽の光によって照らされる白銀の髪が見えた気がした。

「っ!」
 
とっさに振り返った俺は、フードを被った人の背中を見つめた。

しかし直ぐに頭を左右に振った。

「……いや、見間違いだろ」
 
そう都合よく……彼女が姿を現すはずがない。

きっと髪飾りか何かと見間違えたんだろう。

そう自分に言い聞かせながら、俺はもう一度フードを被った子が歩いて行った方向へ目を向ける。

しかしそこにはもうその子の姿は見当たらなかった。

「……行くか」
 
そう小さく呟き俺は踵を返して港に向かって歩き出した。

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スイレンの街中を歩いていた時、青髪も持った男の人とすれ違った。

「……っ!」
 
一瞬だけどすれ違った時、その人の顔が見えた。

髪は青色でとても整った容姿をしていて、右目には薄紫の和柄の眼帯を付けていた。

「……ブラッド?」
 
止まりかける足を必死に歩かせ、先にある角を曲がったところで私は足を止めた。

ドキドキと心拍数が上がっていく中、私はこっそりと彼の後ろ姿を見つめた。

彼は辺りをキョロキョロと見渡しながら港がある方へと歩いて行く。

「……ブラッドがここに居るはずない」
 
あの人がここに居るはずない。

それに彼は青髪だったし雰囲気が少しブラッドに似ていただけよ。

そう自分に言い聞かせながらお兄様を探して再び歩き始める。